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ずっとあなたがいてくれた 第十三話

「ねえかすみ、これ知ってた?」
テーブルへ戻った私に母が尋ねる。飲み物を載せたトレイをテーブルに置
き、腰を下ろして話を聞いた。絵の裏側に文字が書いてあるのだという。
「文字?」「そう。小さな字で、かすみちゃんへ、って書いてあるの」
まさか――。母から絵を渡され、食い入るように見つめた。
 かすみちゃんへ、明後日の午後六時、この絵に描かれた場所へ来てくださ
い。話したいことがあります。できれば一人で来てほしい。 如月晴馬
これを私に見せるために、彼は絵を差し出したんだ……。「何だって?」「絵に描かれた場所に来てほしいって。できれば一人で」
「そう……。で、どうするの?」「どうするって?」「行くの?」「うん……」母はため息をついた。「でも、何も覚えてないんでしょう? 如月さんの上の息子さんのことだって」「そうだけど」「そうだけど、ってあなたねえ――」言いかけて、母はまたため息をつく。
「お母さんは行ってほしくないの?」
 顔を上げた母は何かを言いかけて、でもあきらめたようにうつむき、好きにしたらいいわ、と言った。急に不安になって、「教えて、何があったのか。お母さんお願い、私知りたいの」「そんなこと――」言えるわけないじゃない、と母は小声で言って、彼のメッセージの下に何かを素早く書きつけた。
「住所、書いておいたから。ここがどこだかわからないって言ってたでしょ」
ありがと、と私が言うと、「じゃあ帰るわね」と席を立ち、伝票を持ってレジに向かった。
 母が去ったあと一人で絵を見ていたら、何があったのかますます知りたく
なった。知らないほうがいいのかもしれない。とはいえ知らないまま会いに
行ったら、余計にショックを受けるのではと心配になる。だからといって、いま本当のことを知ったら、もっとショックを受けて立ち直れなくなるかもしれない。
 ぐるぐると同じ考えがめぐっていて、いつまでも席を立つことができなかった。どうしよう、誰かに相談できたら……。
「そうだ!」
 声を上げた瞬間、周囲の視線が気になり、すみません、と小声で言ってうつむいた。でも気分は高揚している。タカシに聞いてみよう。そう思ったら気持ちが楽になった。さっそくタカシに連絡する。
 如月先生と明後日会うことになったので、先生のお兄さんのことを教えてほしい、詳しくは会ってから、そんな文面のメールを送った。

第14話へ続く

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