『マチネの終わりに』第六章(58)
自分にせよ、パリで彼女がコンサートに来なかった理由を説明されたあとでは、当然のように、そういう事情なら、ジャリーラのことを優先させるべきだと思ったはずだった。新宿駅では待たせてしまうことになったが、三谷の携帯で書いたメールで、状況は理解してもらえたはずだと信じていた。
今日ではなく、昨日会うということには、何か洋子にとっての特別な意味があったのだろうか。或いは、何か思いもかけないトラブルに巻き込まれているのか? 事故か、急病か。――むしろ、そちらの方が心配になってきた。