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平野啓一郎|小説『マチネの終わりに』後編

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平野啓一郎のロングセラー恋愛小説『マチネの終わりに』全編公開!たった三度出会った人が、誰よりも深く愛した人だった―― 天才ギタリスト・蒔野聡史、国際ジャーナリスト・小峰洋子。四十…
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#連載小説

寄稿:『マチネの終わりに』連載を終え 自由意志巡る物語に挑戦

 十カ月余りにわたって朝刊で連載してきました「マチネの終わりに」が、一月十日を以て、無事…

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大空祐飛・平野啓一郎 小説『マチネの終わりに』出会いの夜のシーンを朗読!

元宝塚歌劇団宙組トップスターの大空祐飛さんが、自由に表現を楽しむ人にお話を聞く朝日カルチ…

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『マチネの終わりに』第六章(54)

 彼という人間が、考えに考え抜いて、こんな身勝手なタイミングにまでずれ込んでしまったその…

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『マチネの終わりに』第六章(55)

 洋子は、音楽に、自分に代わって時間を費やしてもらいたくて、iPodをスピーカーに繋いで…

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『マチネの終わりに』第六章(56)

 照明が眩しかった。彼のために、空港のトイレで化粧を直して以来の自分自身との再会だった。…

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『マチネの終わりに』第六章(57)

 後戻りするつもりはまったくなさそうで、その上でこちらの反応を気にしている様子だった。最…

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『マチネの終わりに』第六章(58)

 自分にせよ、パリで彼女がコンサートに来なかった理由を説明されたあとでは、当然のように、そういう事情なら、ジャリーラのことを優先させるべきだと思ったはずだった。新宿駅では待たせてしまうことになったが、三谷の携帯で書いたメールで、状況は理解してもらえたはずだと信じていた。  今日ではなく、昨日会うということには、何か洋子にとっての特別な意味があったのだろうか。或いは、何か思いもかけないトラブルに巻き込まれているのか? 事故か、急病か。――むしろ、そちらの方が心配になってきた。

『マチネの終わりに』第六章(59)

 蒔野は、洋子の自分に対する態度に、これまで知らなかった冷たさを感じた。  自分に会いた…

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『マチネの終わりに』第六章(60)

 彼が長らく思い悩んでいたということには、時が経つほどに同情的になっていた。しかし、それ…

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『マチネの終わりに』第六章(61)

 長崎へ行く当日の羽田空港では、飛行機に搭乗し、ドアがロックされる最後の瞬間まで、蒔野が…

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『マチネの終わりに』第六章(62)

 元気そうだったが、祖母が庭で転倒して亡くなっただけに、母の独り暮らしも気懸かりだった。…

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『マチネの終わりに』第六章(63)

 高校までスイスで過ごし、アメリカの大学で教育を受け、長くフランスで生活している洋子から…

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『マチネの終わりに』第六章(64)

【あらすじ】蒔野は、急病に倒れた恩師の元へ駆けつける際に携帯電話を落とし、ちょうど来日し…

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『マチネの終わりに』第六章(65)

 長い間、長崎に生き残していた自分を、今改めて生き直している。だからこそ、彼女が原爆について語り合えるのは、同世代人ではなく、むしろこんな若い世代なのかもしれない。母の長崎での時間は、そこで止まったままだったのだから。そして、この地で生き続けてきた人に対する屈折を、意識せずに済むだけに。……  母が外出し、実家で独りになると、洋子は安堵から、悲しみが胸に広がるがままに任せた。  縁側に籐の椅子を出して腰掛け、氷で薄まった麦茶を飲みながら、遠くで聞こえる船の汽笛に耳を澄まし