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平野啓一郎|小説『マチネの終わりに』後編

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平野啓一郎のロングセラー恋愛小説『マチネの終わりに』全編公開!たった三度出会った人が、誰よりも深く愛した人だった―― 天才ギタリスト・蒔野聡史、国際ジャーナリスト・小峰洋子。四十… もっと読む
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#ギター

作中の架空の名曲『幸福の硬貨』も収録!『マチネの終わりに』タイアップCDが10/19発…

『マチネの終わりに』作中に登場する曲を集めたタイアップCDが、 2016年10月19日に発売されま…

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5月19日放送 TOKYO FM『LOVE CONNECTION』での、平野啓一郎のインタビュー内容が掲載…

5月19日に放送された、TOKYO FM『LOVE CONNECTION』内のコーナー「STARBUCKS MUSIC BARISTA 」…

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『マチネの終わりに』第六章(72)

 長崎に彼女に会いに行くことも一度ならず考えた。実家の場所まではわからなかったが、宿泊予…

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『マチネの終わりに』第六章(73)/第七章(1)

 二週間経ったある日の午後、蒔野の許には、洋子から一通のメールが届いた。極短い文面で、リ…

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『マチネの終わりに』第七章(2)

 テレビやラジオでは、時折姿を見かけることがあり、特に重病を患っているということでもなさ…

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『マチネの終わりに』第七章(3)

 五人の審査員中、蒔野は最年少で、必ずしも発言が多かったわけではなかったが、彼のその指摘…

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『マチネの終わりに』第七章(4)

「それで、何の香水なんだって彼女を振り返って、ふと前を向いたらさ、目の前をおじさんが一人、歩いてるんだよ。――その人だったんだよ! 匂いの元は。」  息を呑んで話に引き込まれていた一同は、ほとんど困惑したように失笑して顔を見合わせた。 「何の変哲もない、ものすごくリアリティのあるおじさんだったな、中肉中背の。髪は黒々としてるんだけど、てっぺんだけ禿げてて。改めて意識して嗅いでみると、やっぱり、その人なんだよ。妙にいい匂いで、見た目とのギャップが激しくて。何なのかな?」

『マチネの終わりに』第七章(5)

「ううん、コンクール会場にいたよ。空港から直行して、荷物があったから、終わって一旦ホテル…

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『マチネの終わりに』第七章(6)

「三谷さんでいいよ。結婚してからも、仕事は蒔野じゃなくて三谷でしてるから。今回は、家で留…

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『マチネの終わりに』第七章(7)

「想像するだけでも辛そうだね。痩せた?」 「かなりね。それで、口の中はともかく、手足は、…

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『マチネの終わりに』第七章(8)

「せっかく久しぶりに会ったのに、湿っぽい話になってしまって悪いね。」 「ううん、全然。」…

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『マチネの終わりに』第七章(9)

 武知は、そう言って肩を揺すって笑った。蒔野は、音楽業界の惨状は言うまでもなく知っていた…

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『マチネの終わりに』第七章(32)

 一年半もギターに指一本触れていなかった蒔野は、復帰までには、最低でも一年は必要だろうと…

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『マチネの終わりに』第七章(33)

 蒔野は、ようやく老人介護施設への入居が決まった祖父江が、旧朝香宮邸の庭園美術館で催されているアール・デコ展を見に行きたいというので、介添えをしながら、その話をすることにした。  祖父江はまだ会話が不自由で、展示を見終わったあとは、美術館の名前の由来にもなっている広々とした庭園を散歩しながら、蒔野が一人で喋り続けた。 「しかし、アール・デコっていうのは、パリで見るとあんなに豪華で色気があるのに、日本に持ってくると、どうしてこう貧相で、ジジ臭いんですかね? ここは相当がんば