『マチネの終わりに』第八章(28)
回を重ねるにつれて、蒔野も尻上がりに調子を上げてゆき、その分、武知とのバランスには気を遣った。彼の個性を受け容れるだけでなく、折々鼓舞し、終演後にも気になる箇所を確認し合った。ラヴェルのピアノ協奏曲のアダージョはプログラム前半の最後に置いて、武知をひたすら盛り上げることに徹したが、休憩時間には、蒔野の柔らかな、それでいて、要所でさりげなく旋律の背中を押すような伴奏の巧さが、却って評判となったりした。
ツアーが始まった頃、武知は、とある音楽愛好家のブログで、彼らのデュオが