ある男|21−4|平野啓一郎
城戸は、下を向いて、小さな人差し指で器用にタッチパネルを操作する颯太を見つめた。自分の子供の頃に顔も性格もよく似ていると思った。彼はそのことにやはり喜びを感じていたが、颯太にとっては、将来、苦悩の原因とならぬとも限らなかった。自分は、真っ当に生きなければならないと城戸は思った。そして、この子を譲り渡すという決断を想像して、胸が張り裂けそうになった。
『俺は、それをきっと身悶えして後悔するだろう。谷口大祐のように。──しかし、原誠ではなく、別の誰かだったなら、谷口大祐の続きの