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平野啓一郎|小説『ある男』

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平野啓一郎の最新長編小説『ある男』。愛したはずの夫は、まったくの別人であった。「マチネの終わりに」から2年。平野啓一郎の新たなる代表作! ーー
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2018年10月の記事一覧

ある男|23−5|平野啓一郎

城戸からの報告で、彼女の心を最も激しく揺さぶったのは、一通り話し終えたあとの次のような一…

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ある男|23−4|平野啓一郎

城戸の報告を受け取った里枝は、この一年余りもの間、失われていた夫の名前が、最終的に「原誠…

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ある男|23−3|平野啓一郎

彼女は昔から、読書家という人々に一目置いていて、しかも残念ながら、自分だけでなく、前夫も…

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ある男|23−2|平野啓一郎

声変わりもして、近頃では、うっすらと髭も生えてきたようで、死んだ父親の電気カミソリをどこ…

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ある男|23−1|平野啓一郎

弁護士の城戸章良と面会した日の三日後、里枝は、このところますます部屋に籠もって本ばかり読…

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ある男|22−5|平野啓一郎

伐採して、トラックが出入りできるように開かれたスペースの奥で、オレンジ色の首の長いクレー…

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ある男|22−4|平野啓一郎

道は大きくうねっていて、時々視界が開けると、遥か遠くの下方に、先ほど通ったらしい道が見えた。意外と高いところまで、登って来ていた。 「雨でも作業はするんですか?」 「まあ、これくらいなら。あんまり大雨だと事故もありますし、やりませんけどね。早目に切り上げたり。」 城戸はふと、原誠が里枝の文房具店を二度目に訪れた日が、豪雨だったという話を思い出した。恐らくは、仕事が休みになったか、途中で引き上げた日だったのだろう。 「あー、こういう現場は、ちょっといただけませんなあ。汚

ある男|22−3|平野啓一郎

道中、城戸は、里枝の依頼で「谷口大祐」さんの遺産の処理などを手伝ううちに、林業に興味を持…

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ある男|22−2|平野啓一郎

南向きの窓から差し込む太陽の光が、通路を経て、城戸の顔を眩しく射た。それを、機内サーヴィ…

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ある男|22−1|平野啓一郎

羽田から宮崎までの二時間弱のフライトの間、城戸は、窓の外を眺めながら独り考えごとに耽って…

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ある男|21−5|平野啓一郎

香織はなかなか戻って来なかった。しばらくすると、颯太が、 「あっ、おとうさん、へんながめ…

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ある男|21−4|平野啓一郎

城戸は、下を向いて、小さな人差し指で器用にタッチパネルを操作する颯太を見つめた。自分の子…

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ある男|21−3|平野啓一郎

案内されたテーブルは、意外に窓からも近く、彼方に皇居が見える青空の下の広大な東京の街を眺…

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ある男|21−2|平野啓一郎

城戸は香織に、遠くから見てもありがたみのない鉄塔だが、間近で見てもふしぎなほど感動しないと、思った通りのことを言ったが、香織も、「ほんとね。」と同意して笑った。颯太が途中で、ガチャガチャを一回どうしてもしたいというので、城戸が小銭を出してやった。鎧兜のミニチュアだった。 水族館は、同じ建物に入っていて、こちらも混んではいたが、行列は短かった。三人で、八景島のシーパラダイスには行ったことがあるが、ここは、城戸も香織も初めてだった。 中は、今風の薄暗いデート向けの照明で、颯太