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「仕方ないよ」と思いながらする作業

弟は、作業所でみんなと仲良く作業をしていた。

真面目だったから、毎日ちゃんと通っていた。

極めて温厚で、言葉数も少なくなっていた弟は、大抵のことは
「いい感じ」とか「楽しい」とか「大丈夫」とか
こちらが答えて欲しい想定内の模範解答をしてくれていた。

いつもの朝。
歯磨きするのに鉢合わせた洗面所で、何気なく「お仕事、どう?楽しい?」と
単なる朝のコミュニケーション程度で聞いてみたのに…

「。。。仕方ないよ。。。」

想定外の想像だにしていなかった返答に、私は絶句。

そんな言葉、いつ覚えたの?
ていうか、君、時々ものすごく本質的なこと言うよね、
本当は、家族のためにダウン症という仮面をかぶってるだけちゃうの?って
思う時があった。

この時、初めて、もっと違う作業がしてみたいんだね、と本音を聞いたような気がした。

僕の能力では仕方がないよ、与えられたものをやるよりほか仕方がないよって
心の底では思っていたのかもしれない。

選択肢は、なかったんだろうか?

創造性を発揮してアーティストになっているダウン症の方がいらっしゃったりもする。でも、そんな人はひと握り。

そんな大それたことでなくても、パンを焼いたり、公園の草木の手入れをして
就労している人もいらっしゃる。

周りの仲間や職員の方とうまくやっている弟に、そんな不満があるだなんて
夢にも思わなかった。そして、多分、そんな気持ちを知ったのは私だけだ。

単価の安い単純作業の下請け仕事すら、どんどん減っていると職員の方から聞いた。コロナ禍になって、もっと仕事が減っているのではないかと思う。
下請け仕事をもらってくる営業力は、施設職員の腕にかかっている。
なかなかハードルの高い業務だろう。

でも、心の底では、「仕方ないから与えられた仕事を黙々とずっとやるよ。」と思っている利用者がいるかもしれないということを、職員の方にも知ってもらいたいと思っている。

単価の高い仕事や、個々人の特性にあった仕事ができるよう支援できる人になりたいと思って、経営の勉強をしたり、自分の仕事で営業力を高めようと思っている。

弟の作業内容を変えてあげることはできなかった。間に合わなかった。

でも、他の誰かが、やりがいのある仕事に就けるように、
何かしていきたいと思っている。

本当にポンコツなお姉ちゃんで、ごめんね。




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