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【平戸を醸す】飛鸞はどのように地域性を表現しているのか?(生酛編)

飛鸞は長崎県平戸市で醸される日本酒です。平戸に賑わいをもたらすため、長崎県平戸市でしか実現できない唯一無二の酒造りを追求しています。

実は飛鸞、「平戸の風土」を酒に限りなく反映するため、数多くのことを行なっております。

本シリーズでは、飛鸞が「平戸の風土」を日本酒で表現するために、どのようなことを行なっているのかを、生酛編・米編・酵母編・未来編の四つにわたって紹介します。

今回は、飛鸞の酒造りで多く用いられる「生酛」にフォーカス。

お酒としての美味しさのみならず、地域性という情緒的な価値を表現することで、芸術作品として日本酒を昇華させる。そんな飛鸞の奥深い取り組みに触れます。


酒造りにおける「生酛」とは?

ーーーそもそも生酛とはどういったものなのですか?
森:「生酛」とは酒母作りの方法の一つで、学術的なことを言うと、江戸時代に完成された製法です。

酒造りで多く用いられているのは「速醸」という人工的に乳酸を添加することで酒母を作る方法ですが、この方法は近年になってから誕生した製法です。

元々は、蔵に棲みつく乳酸菌を生かして乳酸をつくり、自然的に酵母にとって安全な環境を作る方法が生酛と考えられています。

撮影・編集 カワナアキ

ーーー生酛というと「昔ながらの製法」というイメージがありますが、飛鸞にとっての生酛はどのように定義しているんですか?

森:酒蔵によって生酛に対する見方は変わりますが、飛鸞では「平戸の地域性を活かす」ための方法として生酛を考えています。

なので、速醸のような添加物に対して否定的な態度を持っているわけではありません。むしろ、生酛を取り入れることで本来表現したい味わいが変わってしまうのであれば、生酛を取り入れるべきではないと考えています。

しかし、私たち飛鸞は「お酒としての美味しさ」に限らず「芸術作品」として、日本酒を通して平戸の地域性を表現したいと考えると、生酛を取り入れるべきだと感じました。

撮影・編集 カワナアキ

飛鸞で生酛を導入した理由

ーーー生酛を取り入れるに当たって、きっかけとなった具体的な出来事はあったのでしょうか?
森:かなり意外かもしれないですが、日本酒の同業者からではなく、米農家の方から多くの刺激を受けて、生酛で酒造りをしたいと感じるようになりました。

私が普段交流のある農家の方々は、大量にお米を作るのではなく、無農薬栽培で少量を丁寧につくっています。無農薬栽培での米作りに触れることで、自然の摂理に沿ってものづくりをすることの重要性に気づきました。

無農薬栽培によるお米って、実は粒の状態を良くすることが非常に難しかったり、害虫からの被害も多くなるので、機能的な側面でのメリットはそこまで大きくないんですよね。

ーーーでは、なぜ無農薬栽培米にこだわっているのだとお考えですか?
森:思想を買っているんだと考えています。あくまでも口に入れるものは、化学肥料などが使われていないオーガニックなものを取り入れたいよね、という考えを大切にしているんです。

機能的な価値ではなく思想的な価値をモノづくりに取り入れることの重要性を、無農薬栽培の取り組みから触れ、この価値づくりの方法を飛鸞でも取り入れたいと感じました。

嗜好品としての美味しさだけではなく、それを超えた情緒的な価値づくりに取り組みたい。そのために生酛を取り入れることを決めました。

撮影・編集 カワナアキ

生酛を導入するための壁

ーーー生酛を始める際のハードルはありましたか?
森:そうですね…そもそも当初、生酛での酒造りは未経験だったので手探り状態で取り組みました。

また、蔵に戻って間もない頃は私含めて二人しか蔵人がいなかったので、手作業の多い従来の生酛をそのまま行うのは難しいなと感じていました。

さらに環境的な難しさもありました。長崎県は他の地域と比べて、暖かくなるのが早いので、寒い季節の長い地域とは異なる方法で取り組まなければなりません。教科書通りにつくれば良い訳ではなく、その蔵の置かれた環境に応じて独自の方法を確立する必要がありました。

なので、生酛のために設備を刷新したり、作業工程における細かなアレンジなど数多くの工夫を行いました。

ーーー設備の刷新の中で、例えばどんなことをおこなったんですか?
森:一例として、生酛造りでは硝酸還元菌という菌をつくることが重要なのですが、その繁殖にブレがタンクごとに生じてしまったんですよね。この繁殖のブレが結果的に酒質のブレにつながっていくので致命的な問題でした。

しかし、そもそも教科書とは異なる方法で生酛づくりに取り組んでいたので、この繁殖のブレを防ぐ方法がどこにも記されていない。

どうしようかな…と頭を悩ませながら様々な仮説を立て検証していくと「密閉環境」だと硝酸還元菌の反応が良いということが発覚しました。

これだ!となり清潔な状態にしたビニールに生酛の原料を加えて密閉し、その状態で酛摺りを行うと、理想的な形で硝酸還元菌が反応し雑菌を防ぐことに成功しました。

かなり専門的な内容になってしまいましたが、このような形で一つずつ課題を解決することで、理想的な生酛の形を私たち独自の形で編み出していきました。

撮影・編集 カワナアキ

生酛による飛鸞の味わい

ーーー飛鸞では、生酛による味わいの変化はございますか?
森:ものすごく科学的な話をすると、生酛はペプチドという分子が生成されやすくなるので、味わいに厚みが現れ旨みを引き出してくれます。またミルキーな要素が現れたりするので、生酛による味わいの変化は多少はあるかと思います。

しかし、飛鸞では「速醸と区別できないくらいの味わいを生酛でつくらないと意味がない」と考えています。

よく日本酒の教科書で「生酛はものすごく濃醇でコクがある」という表現がなされることがありますが、これは生酛だからこのような味わいになっているのではなく、生酛を適切に管理できないことが要因でそのような味わいになっている可能性が高いです。

ーーー生酛で、安定して美味しく酒造りをするのはかなり難しいのですね。
森:そうですね。生酛は非常に難しい製法のため、技術力が安定していないとタンクによって酒質が大きくブレてしまいます。それが意図した変化なのであれば良いですが、一つの銘柄で味わいが大きく変わることは問題だと考えています。

昨今、生酛を取り入れる酒蔵は増えていますが、味わいが大きくブレてしまうのであれば、よりコントロールしやすい速醸でつくるべきだと思いますし、生酛をコントロールできる方法が確立できないのであれば安易に手を出すものではありません。

ーーー最後に、難しい中でも飛鸞で生酛を採用している理由を教えていただきたいです。
森:飛鸞にとっての生酛は、あくまで「平戸の地域性を表現する」ための手法ですので、生酛による味わいの変化は目指しておりません。嗜好品としての飛鸞ではなく、平戸の地域性を表現する芸術作品としての飛鸞を実現するために、我々は生酛を取り入れています。

そういった意味で、速醸と区別できないほどの味わいを生酛で実現できるよう意識しております。

撮影・編集 カワナアキ

「飛鸞」は全国の飛鸞販売店で販売中

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飛鸞は、国内だけではなく世界に羽ばたいていくブランドを目指しております。そのため、今まさに『人の力』がより重要になる段階に差し掛かっています。

私たちの目標は、モノづくりを楽しみながら、飛鸞というブランドを成長させていくことです。10年後、20年後には、より素晴らしい景色を皆さんと共に見たいと考えております。

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