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映画・ドラマ・小説の感想

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観たり、読んだりした感想を書きます。
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#読書感想文

読了後にある爽快感:小説「木挽町のあだ討ち」読書感想

 第169回直木三十五賞・第36回山本周五郎賞、受賞作。  オチはなんとなく知っていた(知りたくなかったのに、youtubeのある番組を見て知ってしまっていた💦)のだけど、最後までとても面白く読めました。というのも、芝居小屋の人々に話を聞いて回っているその人は一体誰なのか?という謎を知りたかったから。  オチ自体は、物語を読み進めていけば「もしかして、、、」と考えられるような構成になっていて、素敵だなと思った。  また、芝居小屋の人々がそれぞれ抱えている過去、心に抱えてい

罪×パンデミックな小説「ツミデミック」読書感想

 一穂ミチさんの文章は、とても読みやすい。そして本作においては、「罪」がテーマの1つでつらい描写もあるのだけれど、どこかさらっとしていて、私のページをめくる手が重くなかった。あっという間に、1日で読了した。  第171回直木賞受賞作の短編集。  1話目の「違う羽の鳥」、途中までは最高に好奇心が刺激された。不思議で、ちょっぴり怖くて、予想を覆すストーリー展開。オチだけ、ちょっと肩透かしをくらった気がしましたが、それ以外はミステリ的なお話でとても楽しめました。  5話目の「祝

還暦を迎えた女性暗殺者たちのミステリー: 「暗殺者たちに口紅を」読書感想

 「暗殺者たちに口紅を」 ディアナ・レイバーン (著), 西谷 かおり (翻訳)を読みました。  読みながら、脳内でハリウッド映画を見ているようでした。特に暗殺というミッションをこなす還暦を迎えた女性4人組の描写の部分はスピード感があり、あっという間に読んでしまいました。若くて、暗殺者としては絶頂期というわけではなく、年齢を重ね、無理をすると身体がきつい彼女たち。けれどこれまでの経験から、狙撃名手がいれば、毒薬を使いこなしたり、武器が好きだったりと、自分たちそれぞれの経験と

「ある行旅死亡人の物語」―孤独死から解き明かされる身元不明の女性の半生と、自分の人生について考える時間

 ノンフィクション、「ある行旅死亡人の物語」を手に取りました。ある孤独死をした身元不明の女性の人生に焦点を当てたこの作品は、彼女が残したわずかな痕跡から、記者たちがどうやって彼女の身元と半生を解き明かしていったのかを描いています。興味をお持ちの方は、ネット上で公開されている原稿もご一読いただけます。  (無料で全文読めました)↓  警察も探偵も、彼女の身元を明らかに出来きませんでした。なぜなら、彼女は住民登録がされておらず、銀行の通帳を作成したときに残るはずの資料も何故かな

一気読みしてしまうミステリー小説「キュレーターの殺人」読了:ワシントン・ポーシリーズ第3弾

 M W クレイヴン (著), 東野 さやか (翻訳)の「キュレータ―の殺人」を読みました。  今作も面白く、500ページほどある作品ですが、あっという間に読んでしまいました。最近、このシリーズを立て続けに読んでいます。他の本も並行して読んでいるのですが、本を読む前にページ数を確認して300ページぐらいだと短いからすぐ読めそうだという感覚になってきました。この作品の面白さと読書体験に、感覚がマヒしてきました😅  今回は物語の中盤で、読者をひきつける謎が一気に方向転換します

「ブラックサマーの殺人」読了:一気読みしてしまうミステリー小説第2弾

 M W クレイヴン (著), 東野 さやか (翻訳)の「ブラックサマーの殺人」を読みました。  こちらは、「ストーンサークルの殺人」が1作目だったワシントン・ポーシリーズ2作目です。  「ストーンサークルの殺人」の読書感想はこちら⇩  今回も面白くて、一気読みでした。  6年前にポーが手掛けた殺人事件。三ツ星レストランのカリスマシェフが、娘を殺したとして有罪判決を受けた。しかし6年後、殺されたと思われていた娘が生きて現れた。シェフに対する冤罪疑惑が持ち上がり、ポーは窮

秋の夜長に読むサスペンス推理小説にオススメ!「ストーンサークルの殺人」”ワシントン・ポー”シリーズ、必読の理由

 「ストーンサークルの殺人」M W クレイヴン (著), 東野 さやか (翻訳)を読みました!めちゃくちゃ面白かった!文庫本としては600ページ近くあるのですが、とにかく昨日1日で500ページぐらいを一気読みしました。そのくらい読みやすく、終始物語に飽きることがありませんでした。秋の夜長に面白い推理小説を読みたいという方には、かなりおすすめです。この作品はシリーズ化されているということで、2~4作目も買って読みたいと思っています。  この物語の面白かったところは、とにかく主

小惑星テロス衝突直前のミステリー: 「此の世の果ての殺人」読書感想

 「此の世の果ての殺人」を読みました。第68回江戸川乱歩賞受賞作です。  私は犯人が誰かということを、割と早めに気付いてしまいました。が、物語がどうやって終わりを迎えるかという過程を楽しませてもらえたというのが正直な感想です。  とはいえ、作者の荒木さんは23歳のときにこの作品で乱歩賞を受賞されました。私が23歳だったころを振り返ると、彼女のような成果を上げるのは難しいと感じます。すごいです。  もうひとつ印象的だったのは、物語の終わり方でした。主人公がこの世の終わりに叶

一冊で多くの異世界を旅する:「遠い野ばらの村」読書感想

 誕生日に友人が贈ってくれた「遠いのばらの村」という童話の短編集を読みました。この本には九つの不思議な物語が収録されていて、どのお話も主人公が異世界と現実を行き来するか、主人公のもとで動物が話す物語が描かれています。楽しい世界である一方で、時には怖い、切ない、あるいは悲しい場面もあるのが特徴的だと思え、面白かったです。  友人が特にすすめてくれたのは、「初雪の降る日」という話でした。  小さな女の子が道に石けりの輪を見つけて遊んでいるうちに、雪を降らせる白ウサギたちによって

老いない時間を過ごし続けたら、どんなことを感じ、思うようになるだろう:ケン・リュウ「アーク(円弧)」読書感想

 ケン・リュウ著「紙の動物園」という短編集の中にある「アーク(円弧)」という作品を再読した。  この物語は、新しい命、つまり自分の子供と向き合うことを放棄した女性が主人公だ。彼女は自分が生きるために、死体を扱う仕事をした。その後、遺伝子に対する治療などを通して、永遠の命を持つことになる。  老いることがなくなった彼女が、長い長い時間の中で命についてどのように関わってきたのかを描いている。そして彼女が生きること、命について最終的に出した結論はどんなものだったのか。  初回に

作家の晩年と人生哲学を探る:「死をポケットに入れて」ブコウスキー読書感想

 作家、チャールズ・ブコウスキーの「死をポケットに入れて」を読んだ。  ブコウスキーが亡くなったのは1994年3月9日。この作品は、1991年8月28日から1993年2月27日までの間に書かれた33日分の彼の日記である。しかし、実際は日記というよりもエッセイのようだと訳者あとがきには書かれている。確かに読んでいると、書くことについてやこれまでの人生について振り返っていたり、短編小説を読んでいるような面白いエピソードもいくつか書かれている。  文庫本としては、薄い230ペー

ペット愛と社会問題が交差するミステリー:「ロスト・ドッグ」読書感想

 ロスト・ドッグ(酒本歩 著)を読みました。  この物語は主人公、太一の愛犬、ポメラニアンのモコが僧帽弁閉鎖不全症だと判明し、延命するには手術が必要だと分かるところから始まります。手術代は200万円。太一のwebライターとしての収入だけでは、手術代をすぐに用意するのは困難です。愛犬を助けたい太一は、手術代をどうやって工面するのかと悩みます。  一方、太一はひょんなことから犬の「引き取り屋」という問題を取材することになりました。引き取り屋はペットショップで売れ残ったり、事情で

緻密さとエンタメ性と深淵が交錯する古典ミステリー:『グリーン家殺人事件』レビュー

 作家、中山七里先生がおさえておきたい古典ミステリー10選の中に選ばれた1冊「グリーン家殺人事件」を読んだのでレビューしたいと思う。  ちなみに、おさえておきたい古典ミステリー10選は、「中山七里のミステリーの書き方」(ポッドキャスト)の第一回で紹介されている。  「グリーン家殺人事件」は古典ミステリーとはいえ、読んでいて古臭さを感じさせない一作だった。  物語の舞台は、仲違いしている金持ち家族が住む館。そこで家族が一人ずつ殺されていく連続殺人が起こる。使用人も含めて、全

禁域の山で起こる謎と恐怖のエンタメ体験:バイオ・ホラー小説「ヨモツイクサ」レビュー

 バイオ・ホラー小説「ヨモツイクサ」(知念実希人 著)を読んだ。  フタを開けてみると、これはホラー、ミステリー、サスペンスの要素が融合した一冊だ。それぞれの要素が興奮と好奇心を刺激し続け、読めば読むほどこの物語の世界に引きずりこまれる。ホラーのエンタメ本を探している方にはぴったりの一冊だと思う。  今日はネタバレを避けて、「この小説のここが面白かった!」と感じた五つをご紹介。 kindleで読める無料お試し版もあります↓ ①怪奇現象の鍵を握る人物は誰かの謎  物語の