「好き」の栄養成分表示

消費者庁は至急、「好き」の栄養成分表示を義務化すべきである。

消費者庁の管轄じゃなければ、少子化対策を担当する内閣府やこども家庭庁などでやったらどうだろうか。


街を行く紳士淑女の皆さまは、目の前の人間から「好き」と言われたとき、落ち着いてそのニュアンスを正しく汲むことができるのだろうか。
私はできない。
その「好き」は一体どの「好き」なのか。全く気が気でないのだ。

「好き」には人や場合によって様々なニュアンスがある。
「友達として好き」
「恋人として好き」
「家族として好き」
「話し相手として好き」
「セフレとして好き」
「サンドバッグとして……」
と、そこには無限のバリエーションがある。

じゃあ、目の前の人間の言う「好き」は一体、どのニュアンスなのだろうか。
「君は僕のことを『好き』といったけど、それはどういう意味で?」と尋ねてはっきりと答えてくれる場合、これはまだイージーなケースだ。

しかし、実際にはそんなイージーケースばかりではない。
中には、「んー」とごまかしたり、「全部!」と自信満々に言う振りをしてごまかしてくる悪い人間もいる。
一方、本当に、複雑な感情がうごめいていて一口には語れない人もいるのだ。

さて、そのまだ明確に名前のついてない「好き」を表すのにはどうしたらよいのだろうか。

そう。そこで参考にしたいのが栄養成分表示である。
お菓子などのパッケージの裏にある「エネルギー ○○kcal」「炭水化物 ○○g」「たんぱく質 ○○g」といったやつだ。

これと同様に「好き」の構成要素も
「友達として ○○g」「異性として ○○g」「年上として ○○g」
みたいに明記すればよいのだ。
ついでに、「エネルギー ○○kcal」も明記してくれれば、どれくらい大きな感情なのかもわかって大助かりだ。

これをお互い確認し合えば、ちょうどダイエットのときにカロリーの少ないものを、筋トレのときにたんぱく質の多いものを、風邪のときにビタミンCの多いものを選ぶように、ほしいものを適切に選ぶことができる。
「私は恋人として好きだったのに、向こうはセフレとして好きだった……」といった、お互いの「好き」の中身が違ってリコール、なんてこともなくなって非常に平和な世の中になること間違いなしだ。

しかし、ここで疑問が生じる。
実際に買い物をするときに、ちゃんと成分表示を見て買っている消費者は一体何割いるのだろうか?
どんだけ「ダイエットしなきゃ」と思っていても、おいしそうなポテチのパッケージを見かけて「あ~ポテチ食べたくなっちゃった」とついついポテチを買い物かごに入れてしまう、そんな消費者ばかりではないのか。

これと同じ体たらくでは、「好き」の成分表示もなんの役にも立たない。

せっかく相手は「お前に対する『好き』はセフレ100g、ゲーム相手50g、エネルギーは1000kcal」と表示してくれているのに、ついつい容姿や口説き文句といったパッケージに惹かれて手を出しているようでは何の意味もない。

では、逆に自分が表示する側になったら?
カレーを作るときにいつも同じ栄養成分割合になるように作れる人間がどこにいるだろうか。
手料理なんて作るたびに中身がすこしずつ変わるのが当たり前だ。

てことは、もし「好き」の成分表示でも同じことが起こるなら、
「昨日は恋人200g友達100gだったんだけど、今日は友達100gだけだわ」
なんてことが起こりかねない。

ダメだ。
完璧に思えた「好き」の栄養成分表示施策も、きっと様々な抜け道が発見されて心の健康被害が多く訴えられるに違いない。

「好き」の消費者ホットラインは今日も電話が鳴り止まないだろう。

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