「土に呼ばれて」番外編~畑日記②桃始笑(ももはじめてさく)
3月10日 畑5日目
晴れて風もなく、暖かい。住宅地から農耕地に入るところで、黒とオレンジの丸っこい小鳥を見かける。ジョウビタキかな、と思うが、「サントリー 日本の鳥百科」によるとジョウビタキは冬鳥らしい。違うのかな。
カモの群れに出くわす。近くに川があるので、そこから来たのだろうか。
今日もヒバリと思われる鳥が鳴いている。昨日、鳥が好きな先輩に鳴き声を録音したファイルを送ったところ、先輩の見立てもヒバリとのこと。繁殖期になると「揚雲雀(あげひばり)」といって、鳴きながら地面からまっすぐ上昇して、しばらく高いところでホバリングし、また降りてくるという元気な行動が見られるらしい。ぜひ見たいものだ。
思わず「小鳥の歌」を歌う。「ことりはとってもうたがすき~」というやつ。春には歌がよく似合う。名前の知らない小鳥がたくさんいるが、どの鳥もひとところに止まっていないので、姿がよく見えない。
畑に着いて、水やりをする。今日もカラカラに乾いている。苗だと姿かたちが見えるので、元気かどうか分かるが、土中にまいた種だと順調に発芽に向かっているのかまったく分からない。見えないところで芽生える兆しがあることを信じて待つ。
帰り道、名前の分からない中くらいの大きさの鳥の大群を見かける。遠いところにいたのに、私がぼーっとしている間にこちらに向かって飛んできていて、頭上を大群で通り抜けていった。出し抜けに「あーびっくりした」と声が出る。
ほんとうに私はぼーっとしているようで、足元に名前の分からない鳥が2羽じっとしていたのを、その2羽が飛び立ってから気がついた。畑をやって鳥をこんなに見かけることができるとは思いもしなかった。季節が変わればまた出会える鳥も変わるだろう。楽しみだ。
3月11日 畑6日目 揚雲雀
種まきして6日が経った。今朝は肌寒かったのだが、昼間は暖かい。雲がそんなにたくさん出ているわけでもないのだが、曇っているように感じる。花粉やらPM2.5やら黄砂やらいろいろ飛んでいるのかもしれない。
今日もカモの群れに出会う。カモといえば川辺に浮いているイメージだったから、農耕地にいるとは思っていなかった。穀物でも落ちているのだろうか。ヒバリなど鳥の鳴き声を聞くと脳に癒し効果がある気がする。
そうそう、先日先輩から教えてもらった「揚雲雀(あげひばり)」をさっそく見た。というより、先輩から教えてもらう前から目撃していたけれど、名前を知らなかったので気に留めていなかったというのが正確だ。地面からヒバリが飛び立って、かなり高いところまで上昇し、そこでホバリングして鳴いている。けっこう長い時間ホバリングしており、まぶしくてずっとは見ていられなかったくらいだ。
畑は今日も乾いていたので水をやり、かがんで芽が出ていないか探した。出ていなかったけれど、土の香りがぷんとした。
帰り道、カモの群れが飛んでいるのに遭う。その様子を見ていたら、子どもの頃『ニルスのふしぎな旅』を読んだときの感覚を思い出した。詳細は覚えていないけれど、ニルスと一緒に私も鳥の背に乗って旅をしたんだと思う。子どもの頃の原体験を自然は思い出させてくれた。
3月12日 畑7日目
今日は10時から用事があるので8時30分に家を出る。晴れ。行き道に小さな林というのか茂みというのかがあるのだが、そこでウグイスが鳴いていた。まだ下手くそで、「ホケッ」と言っている。
畑は湿っていた。まだ朝だからだろうか。ミニニンジンとラディッシュにだけ少なめに水をやる。よく見ると、種を落としたあたりに何かの芽が出ている。雑草かもしれない。でもそろそろ芽が出てもおかしくない頃だ。様子を見よう。
山の方ではトンビが雄大に羽を広げている。いつもと変わりはない、でも同じではない風景である。
3月14日 畑9日目
友人に水やりを頼んだけれど、友人がてんやわんやしているのが伝わってきたので私が行くことにする。ただ今日は心身の調子が芳しくないため車で行く。特に背中と舌の感じが鬱のときのそれなのだ。だがそれほど重くはない。起き上がれるし、食べられるし、ゆっくりだが物事の判断もできる。
車で行くと、畑に人がいた。私が水やりをしていると話しかけてくる。「もう畑は長いんですか」「何を撒いたんですか」。その人は昨年9月から初心者ではじめたらしい。その畑には大根やらが実っていて、私の畑にも実るといいなと思った。芽らしきものは出ているのだが、これがほんとうに芽かどうかは分からない。雑草かもしれないし。短いけど今日はこれでおしまい。
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