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地区リーダーから、コミュニティ・プロデューサーへ

「これ、メンバーに『やれ』って言われへんわ」
 ある県幹部が漏らした。メンバーに「戦い」をおろす(連絡する)のが、ためらわれると言うのだ。こういう愚痴を、東京でも新潟でも大阪でも聞いてきた。
 
 戦いをおろしにくいのは、自分がその内容に納得していないからだ。自分の腹に落ちてないことを、下の者にさせるのはしのびない。しかし、上の者に「これは出来ません」とは言えない。ここには、上の者(学会本部)からの指導は、師匠からの指導であるというロジックが働いている。
「池田先生は、不可能を可能にしてきた。師弟不二の勇将ならば、限界突破の戦いで未曾有の結果を持って師匠に報告せよ」
 こんな暗黙圧が作用するため、幹部たちはタテマエと現実に挟まれた、ため息の立ちこめる小部屋で悶々としている。その幹部たちも、かつては限界突破の戦いで未曾有の結果を出した勇将だったのだ。
 学会の行き詰まりの大きな要因は、これだ。15年ほど前までの学会は、折伏で結果を出さなければ、幹部には上がられなかった。現実的に、後輩の折伏を決める力が必要とされたからだ。
 ところが段々、折伏で結果を出さなくても、事務的な手続きができて、「幹部とのコミュニケーション」がとれる者は役職が上がるようになってきたのだ。折伏を決める力よりも、命令をすんなり聞くことが必要とされたのである。
 時代を鑑みれば仕方のないことだろう。池田先生自身が「ソフトパワーの時代」と明言している。

 事実、末端のメンバーが参加する会合では、幹部はユーモラスに信心の体験談や教学を話してくれる。ところが幹部だけの会議となると、ゴリゴリのハードパワーで会話をするのだ。
「先生は結果主義だ。戦いには勝たねばならない」
こんな話を聞かされる幹部は結果を出さず、役職だけ上がってきた者がほとんどだ。
 それどころか「折伏しろ」と話す幹部自身が、折伏を決められないメンバーになってきている。結果の出し方を知らない幹部と、結果を出せる確信が無い幹部で会議して、温度が上がるはずがない。
「結果を出せるかじゃない、結果が全てじゃない」という意見(感情)が、次第に色濃くなってくる。戦いをおろしにくくなるのも無理はない。

 こんな幹部がいた。彼は私より年下だが、役職が上だった。私は地区リーダー、彼は部長だったと記憶している。
 私の友人が「入会希望カードを書く」と言ってくれたのだが、次の会合までにその友人に会いに行く時間が無い。部長に相談したら、「じゃあ僕が取りに行きますよ!」と元気いっぱいに申し出てくれた。申し訳ないと思いながらも、彼の方が役職が上ということもあり、素直に甘えさせてもらうことにした。
 翌日、会合前に会館で会ったので「昨日はありがとう」と礼を言うと「いやいや、いつでも言うてください!」と笑顔を見せてくれた。そして会合。活動報告の時間がやってきた。
 「活動報告希望者!」の声がかかると、何人かが手を挙げる。その中に部長もいた。ひときわ元気よく声を出していた彼が指名され、発表する。
「昨晩、友人のSくんと対話し、入決を勝ち獲りました!」
 私の友人の名前だった。会場は大拍手。私も拍手しながら、どのような報告がなされるのかと聞き入った。
 「私の友人の入会希望カードを、私の代わりに取りに行った」という話は伏せられ、部長が訪問したところ、こころよくカードに記名してくれたということだけが発表された。彼が入決をとったという話になっていた。私の友人とは、おくびにも出さず。
 会合の後、部長は私の所に来て笑顔で言った。
「昨日の入決、婦人部の方にも話して喜んでくださいました! 『あんたは土壇場で結果を出してくるな!』と喜んでくれました! ありがとうございます」
 彼の目は据わっている。私は、何も言えなかった。ただ、「そこまでして結果が必要だったのだな」と思っただけだ。
 その後、部長はSくんと一切連絡をとっていない。まさにその場の報告のためだけの入決だ。この部長は部の座談会においてメンバーに「おまえらが結果を出さないから、俺の役職が上がれへん」と言い放ち、怨嫉を招いてもいる。
 私も一時期、成果にこだわって、成果を出しつづけた。多少の成果が出ると、数が本質的なものではないことが分かってくる。

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