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色のない桜、色のない季節

春は暖かさを待ち焦がれていた全ての生き物が、命をつなぐために活発に動き出す、私の大好きな季節。
蝋梅、桃の花から始まって、様々な木の花、植物の花が咲く
美しい季節。

とってもワクワクする季節なのに、あの年だけは、私には春が来ていなかった。
その年、私は、色のない春を過ごしていた。

主人は、下咽頭癌と、食道癌が見つかって4年半の闘病で、桜の季節を過ごした後、私の元を去って行ってしまった。

主人は、3月のはじめから、治療のために入院していたのだが、安定してきたので、家で過ごしたほうが良いんじゃないかということになった。
退院を決めて車で家に帰る時、ちょうど桜の花が満開で、私はちょっと大回りをして、桜を見て帰ろうかと、主人に言ってみた。
主人には、そんな思いは一片もなく、身体が辛いからただただ早く家に帰りたいと訴えた。
その時、あぁ、主人はもうそんな段階は通り越して、本当に厳しい所にいるんだと、自分の甘さに腹立たしくなった。
元気な人が思う、相手に喜んでもらおうということと、体が弱っている人が望むことの、この大きなすれ違い、食い違い。

普段から愚痴や泣き言を言わない主人だったけど、心の中では、自分のして欲しいことと私のすることの違いで、寂しかったり悲しかったりしたことがいっぱいあったのかもしれないと本当に切なかった。申し訳なかった。

後で思い返すと、多分、あのときに私の中から色が消えたのだろうかと。
主人を送って、夢中で何ヶ月か過ごしたある日、突然目に入る物の色がとても美しくて、全てがハッキリ、明るく、クリアに見えた!
世の中がこんなに綺麗な色だったなんて!
あれ?私、今まで色を感じてなかったんだ!
色のない世界で生きてきたんだ!と、初めて思った。
頭の中で、色を当てはめていただけで、本当は色を感じていなかったことを強く思った。
色を感じてからは、とても新鮮で気もちがよかった。
また生き帰ったような気がした。
そして、それがスペインの巡礼の道を歩いてみよう!という思いに繋がっていったのだった。

毎年、桜を見る。
毎年、きれいだなぁと桜を楽しんではいるが、色のない桜と共に、主人との別れの日々を思い出し、哀しく懐かしくありがたく…、時には寂しくて。
でも、いろいろなことを考えながら、命がある限り生きていこうと思う。
生きるなら、楽しく過ごさなくちゃとも思う。
それにしても、春の花々、芽吹、全てが美しいですね!
これで、花粉症がなかったらどんなに幸せでしょう!
それでも、今年も桜を楽しんでいます。

読んで頂いてありがとうございました。




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