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『手錠のままの脱獄』と魔法の歌 追悼シドニー・ポワチエ

シドニー・ポワチエが亡くなった。彼と同じ人種的背景を持つ俳優が、黒人のステレオタイプ以外の役を与えられることがほとんどなかった時代に、颯爽とスクリーンに登場し、さまざまな役をこなして、後進に道を開いた功績はいくら評価しても評価しきれない。ポワチエがいなければ、エディ・マーフィーも、デンゼル・ワシントンも日の目を見なかったと考えると、彼の偉大さがわかる。

一方で、演じる役が白人の望む、大人しくて、礼儀正しい、いわいる「ショーウィンドウのなかの黒人」ばかりであったという批判もある。なるほど、うなづける部分もある。彼がアカデミー主演男優賞を受賞した『白いユリ』(1963年)では、東ドイツから亡命した5人の修道女による町の建設を、たまたま通りかかった黒人男性ホーマー・スミスが手伝うはめになる。これを、美化された奴隷制の物語と見ることも可能だ。『招かれざる客』(1967年)では、リベラルな両親に育てられた白人娘ジョアンナがフィアンセの黒人医師を連れて帰省する。ポワチエ演じる黒人医師ジョン・プレンティスは、「黒人である以外」は完璧な人物として描かれている。ジョアンナの両親は最終的に二人の結婚を受け入れるが、同様に反対しているプレンティスの両親の意見が顧みられることはない。

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