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「雑」を使って作品を作る

雑という言葉は、割とネガティブに使われますけど、雑が大事な事はよくあります。雑な性格な方が生きるのが楽、とかそういう話もありますけど、作品なんかを作っている時に特に思うんです。

私は自分が雑か雑じゃないかと言われたら、雑じゃない方だと思ってますが、相対的に誰かから見たら、ものすごく雑に見えているかも知れません。

私が雑かどうかはいいとして、私は作品を作る時に丁寧に考えすぎて、思考が止まることがよくあるんです。自分の中でクリアすべき項目があって、それを満たすアイデアを考えている時、完全に脳が止まってしまうんです。で、それが起きた時は「あ、また来たか。」と思うんです。思考が行き詰まって、本当に袋小路に入ってしまった時に、いつも同じ感覚になります。高校生ぐらいの時の自分の感覚になるんです。

これ、説明がなかなか難しいんですけど、高校生ぐらいの時って、当たり前ですけどド素人なんです。でもド素人なりに、いろんなアイデアを閃くんです。いま考えるとどうしようもないアイデアばかりで、しかも案外若さも溢れてません。どこかで見たもののモノマネだったり、インプットをそのままアウトプットしてるだけだったり。何よりも、そのアイデアがカッコ悪いんです。野暮と言いますか、素人くさいと言いますか。

もっと悪く言うと、ワープロでデザインされた親戚の年賀状みたいな感覚と言いますか、盤面にテプラでタイトルが貼られた自主映画のDVDみたいな感覚と言いますか。なんかあるじゃないですか。このモヤモヤムズムズする感覚。

そういう高校生ぐらいの時の感覚になる時があるんですが、それは往々にして、丁寧に考えすぎている時なんです。

もうそれも何度も経験して来ているので、その感覚に陥っても抜け出すのは一瞬でできます。雑に考えるんです。丁寧に0.1ミリ単位で仕上げた粘土の造形を床に落とすんです。もはや「あ〜あ」とも思いません。作品を作るための一つの行程とすら思っています。

私はそこに何を求めているかと言うと、自分の脳の外のチカラを借りたいんです。それは偶然性という事なんだと思います。0.1ミリ単位で仕上げたのは私の脳の感覚を使ったものですが、床に落として出来たカタチには、私の脳は関与してません。そこに発見があるんです。

もちろん、床に一度落としただけでは発見はありません。落とした粘土から発見がなかったら、もう一度0.1ミリ単位でカタチを作ってまた落とすんです。今度はさっきよりも強く落としたり、ひねりを加えて落としたり。そのうちに、そこから「驚き」を発見します。

自分の脳の中だけでは絶対に思いつかなかったカタチが目の前に現れます。落とした粘土から「驚き」を発見するのは、自分のセンサーのチカラでもあるので、そのセンサーの感度が鍛えられている前提は必要です。センサーがオフになっていたら、床に粘土を落とし続けても発見も何も出来ませんから。

粘土というのは例えですが、意識的に雑に考えることで閃きが生まれることがしばしばありますし、「雑」を通ってない作品はやっぱり小さくまとまってしまうんです。

一方でそれを作品を観る側から考えた時にも、雑さというのは必要なんだと思うんです。雑さがあった方が強くなると言いますか。

私は一年間、美術予備校に通って、毎日石膏デッサンを描いていました。2浪も3浪もしている人の石膏デッサンはメチャクチャ上手いんです。特に私が好きだったのは、日本画科を目指している人のデッサンでした。隅から隅まで硬い鉛筆で凄く丁寧に描かれているんです。透明感すら感じるデッサンだったりするんです。

でも、離れたところから見た時に強いのは、油絵科を目指している人のデッサンでした。木炭で荒いタッチでデッサンしているんですけど、離れたところから見ると、そこに空間を感じるんです。石膏の重さも感じました。荒いタッチのことを「雑」と言ってしまうのは、ちょっと乱暴かも知れませんが、観客に強く届くのは、隅から隅まで丁寧に描かれたデッサンではなくて、荒いタッチで多くの部分を省略したデッサンなんです。

私がいま作っているのは、絵画や彫刻ではなく映像なんですが、同じことを感じます。偶然性をある程度使わないと、驚きのある作品は作れない気がしています。そして、ある部分をバッサリ切り落とす必要がある気もしています。

そして、人間のすごいところは、それが必然的に作られたものだろうが、偶然作られたものだろうが、何らかの解釈をしてしまうところです。

例えば、丁寧に撮影された中世ヨーロッパを舞台にした映画の素材と、適当にiPhoneで撮影された日本の居酒屋での飲み会の映像を、適当に繋いだとしても、絶対にそこに意味が発生してしまいます。逆に言うと、意味が分からない作品を作るのは大変なんです。

ここまで雑についてポジティブに書いてくると、それは「雑」じゃないんじゃないかと思われるかも知れませんが、私が必要としているのはあくまでもイメージ通りの「雑」なんです。無神経で、乱暴で、粗雑な「雑」が、作品作りには必要なんです。

(※写真は雑に描いたコンテです。)





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