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パニック障害はつらいよ

【※この投稿には、パニック発作が起きた時の様子を詳細に書いているので、気をつけて下さい。】

私は2006年か2007年にパニック発作を起こしたことがあります。今から16〜17年前ですかね。そのぐらい前になるとうろ覚えなんですが、私は2007年に『十七個の空間と一匹のウジ虫で構成された作品』というウジ虫を主人公にした短編映画を作ったんです。その作品の中でウジ虫が「盲腸の手術を失敗して…」みたいなセリフを喋ってるんですが、それは私の実体験をベースにしたセリフなんです。だから私がパニック発作になったのが、2007年か2006年という事は分かってるんです。

私は虫垂炎の手術の時に麻酔が効きすぎて呼吸困難になりました。本当は下半身麻酔で意識がある状態でやる手術だったんですが、なかなか麻酔が効かずに量を増やしているうちに呼吸困難になって来ました。「すいません。息が出来ません…」と言った時に、心の底から本気で「ああ、私の人生はこうやって終わるんだ…。これが死ぬ瞬間なんだ…。」と思ったのを覚えています。すると私の周りがバタバタし始め、私は意識が無くなりました。

この麻酔の段取りが大したことのないよくある事なのか、ちょっと危ない事なのか、私は病院に聞くことはありませんでしたが、待っていた妻によると3時間以上手術室から出てこなかったとの事でした。手術後に麻酔医に謝られましたが、詳しく問い詰めることはしませんでした。それは、その体験がものすごく怖かったからです。一刻も早くその病院から逃げたいと思ったんです。

そして2ヶ月後のある日。虫垂炎の術後の痛みも無くなり、手術のことなど忘れていた時にパニック発作が起きました。たぶんPTSDから来るパニック発作だと思われます。最初は「ん?何かおかしい…」から始まりました。とにかく体が熱いんです。体が熱くてジッとしていられなくなって、水のシャワーを浴びたんですがそれでも体の熱さは取れません。そうこうしているうちに「死ぬかも知れない」という恐怖が襲ってきました。その時にマンションの5階に住んでいたんですが、「このままではマンションから飛び降りてしまうかも知れない」とも思いました。とにかく身柄を保護して欲しいと思って救急車を呼びました。

でも救急車が病院に着く頃には落ち着いていました。私は知識としてパニック発作の存在を知っていたので、医者に「パニック発作かも知れません」と伝えました。

次の日に総合病院の精神科に行きました。その頃から心療内科とかメンタルクリニックとかあったのかも知れませんが、私は精神疾患は精神科だと思って精神科に行ったんです。でも、私がこと細かに一部始終を話しても、医者はほとんど聞き流していました。たぶん精神科なので、もっと症状の重い患者さんが多く、パニック発作が1回起きたぐらいの患者の話は聞く気にならなかったのかも知れません。そして、強い抗不安薬が90日分ぐらい処方されました。今ではあり得ない量です。

そこから1年ぐらいはパニック障害だったと思います。歩いているだけで号泣してしまうことが何度もありました。何かを思い出したとかじゃなくて、突然号泣してしまうんです。あとは予期不安ですね。予期不安というのは「またパニックが起きたらどうしよう?」という不安が常につきまとっていることです。しかもその不安は強烈な不安です。

いやしかし、不安という言葉は言い得てないんですよね。予期不安の時の不安は「不安」などという言葉じゃないんです。「ふ…あ…ん…」って、何か空気が抜けちゃってるじゃないですか。そんなんじゃないんです。強いて言うならば、「激烈恐怖地獄!!!!!」ぐらいなんです。「いじめ」や「セクハラ」という言葉が軽いように、パニック障害においての「不安」という言葉も軽すぎるんです。

私はそうは言っても、それで仕事が出来なくなることもなく、CMディレクターとして大きな現場で監督もやってましたから、パニック障害としては軽かったんだと思います。電車や飛行機に乗れないとかそういう事もありませんでしたので。抗不安薬は飲んでましたけど。

でもパニック発作の恐怖は深く記憶されているので、2年ぐらい調子が良いと思っても、2年ぐらい調子が悪かったりもするんです。もうこれは一生つき合っていく「気質」ようなものだなと思っています。パニック発作は誰にでも起こりうるものだと思いますが、起こりやすい気質の人はいると思います。その自覚も私にはありますし。

でも、50歳にもなるといい意味でメンタルも枯れてきて、自分に特化した対処方法も分かってきます。だからよっぽどのことが無い限りパニック発作にはならないと思います。「パニック発作にならないと思う」という希望的観測ではなく、「パニック発作になる気がしない」あるいは「もはやパニック発作にはなれない」という感じかも知れません。

私に特化した方法かも知れませんが、一番いいのは「超開き直り」です。昨日のnoteにも書きましたが、予期不安のような感情が湧き上がってきたら、そこに突っ込んでいくんです。緊張してきたら「もっと緊張しろ!」と自分に言うんです。「ここで倒れたらどうしよう?」と思ったら「積極的に倒れてみよう!」と思うんです。本気でそう思うんですよ。そうするとバカバカしくなってきて不安は完全に消えてしまいます。「え?ちょっと待って!さっきの不安どこ行った?」と思うぐらい完全に跡形も無く消えていきます。だからもはやパニック発作にはなれないのです。「おじさん」という開き直りに最適化された存在になったのも大きいかも知れません。

私がパニック発作になった頃、世の中ではパニック発作に対する理解はほとんどありませんでした。私は隠すこと無く仕事仲間にも「パニック障害になった」と言っていたので、それによって失った仕事もあると思っています。今でも差別的に見られるかも知れませんが、その当時は「頭が狂ってしまった人」ぐらいに思っている人も多かったと思いますので。大事なクライントの仕事を「精神病」の監督になんて任せられない。と思った人もいたでしょう。今でもいるかも知れませんが。

昨日、ジャニーズ事務所の記者会見があり、パニック障害がXのトレンド入りしていました。ジャニーズ事務所の問題についてはここでは書きませんが、パニック障害についてはまだまだ全然理解が進んでいないなと思いました。もっと言うならば、パニック発作の体験をしたことが無いと、あの恐怖は理解出来ないんです。だから理解できないのが当たり前なのかも知れません。普通の恐怖とは質が違うんです。

例えば、1000倍辛いワサビと言われてもよく分からないと思うんです。10倍辛いなら何となく想像できるけど、1000倍だと理解不能だと思うんです。パニック発作は1000倍の恐怖なんです。私がたまに「醤油のビンが怖い」と書いたりしてますが、理解不能だと思います。比喩じゃなくて本当に醤油のビンが怖かった事があったんです。意味不明ですよね。

メンタル疾患は日本ではまだまだ差別されるものなので、誰にも言わずに耐えている人が多いと思いますが、骨折と同じ様なもの考えていけないものかと思ってます。「足の骨が真っ二つに折れた」と言えば同情されますが、「パニック障害になった」と言えば「あっち側」に行ってしまった人のように変な目で見られます。でも、骨折と同じで誰にでも起こりうるものなんですけどね。

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