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『SHELL and JOINT』のレビュー④

今回は、アジアの映画ジャーナリストの方が書いてくれたレビューです。今回も曽根瑞穂さんが翻訳してくれました。言い回しが難しく、少々翻訳が難しかったそうです。興味のある方は、英語の原文も読んでみてください。

この方は、『SHELL and JOINT』を見た多くの方が思っているように、「154分は長過ぎる」ということをキッチリ書いてくれています。作品の長さについては、私なりの考えもあるのですが、上映され、野に放たれた映画ですから、「長い」というご意見が出てくるのも分かります。

15回裏で勝負が着く野球に似たスポーツを考えてみたんですけど、9回裏で終わると思っていたお客さんからしたら、「長いよ」と思うんだろうと思います。あるいは、朝礼の校長先生の話が、75分続いた感じでしょうか。「長いよ」と。あるいは、ラーメン屋でラーメンを注文してから出てくるまで、25分かかった感じでしょうか。「長いよ」と。あるいは、床屋に行って坊主にしてもらうだけなんだけど、3時間かかった感じでしょうか。「長いよ」と。あるいは、タクシーで1万円渡してお釣りが出てくるまでに8分かかった感じでしょうか。「まあまあ長いよ」と。

昨年、トニー・レインズさんとご飯を食べた時に、初めて会った池田暁監督の名前が出てくるところが、なんだか面白いです。

ロッテルダム国際映画祭の編成担当者はいつも「風変わりな」日本映画を探し出してくる才覚がある。例えて言うなら、池田暁監督と同じように。『SHELL and JOINT』は、間違いなくその「先人の遺物」に追随している。
『SHELL and JOINT』はロッテルダム国際映画祭で上映されている。

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この映画は、多種多様な登場人物がカプセルホテル、節足動物、そしてそれらの間を繋ぐ、多くの実存的主題と、相互に混じり合う一連の場面で構成されている。メインとなるスケッチは、ホテルのフロント係であり幼馴染でもある、自殺についてかなりシュールな観点で話をしている男女を中心に展開する。女性は何度も自殺を試みたが、すべてを彼女の心を制御するバクテリアのせいにしている。
それとは別に、ホテルのサウナルームのシーンが繰り返し設定されており、そこで多くの人々が性について話している。勃起について話す男性、倒錯した男性や彼らのベッドでの行動について話す女性たちのように。その他のスケッチでは、結婚、性、死について話す養蜂家のカップル、「人間はいつも我々を殺そうとする」という事実を議論している三種類の昆虫の人形劇、川の中や川岸で排泄する人々、 野外でセックスをするカップル、そして更に多くの人々が登場する。最も印象的なのは、胸を露わにして建物内でパフォーマンスをする三人の女性ダンサーが繰り返す一連の動きである。彼女たちはスカートからたくさんの玉を相次いで放つ前に、何らかの格好で節足動物の動きを模倣しているようである。

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平林勇はこれらの非常にユーモラスなスケッチを利用して、自殺及び死全般、性、人間関係、そして何よりも色々な方法で物語を特色付けている節足動物について多くのことを語っている。結果的に、突飛で奇妙な日本流の、それぞれのコマの安定したショットを主な特徴とする、最小限の映画撮影技術は非常に適しており、一方で渡邊崇によるインダストリアルミュージックは様々なシーンに危険な情操をもたらしている。
しかし、これらの物語の要素(シュールレアリズム、ユーモア、奇抜さ、不条理だが興味深い会話、異なるシーケンス)がどの程度、映画に寄与しているかについては限界がある。映画は154分間続くため、平林勇に着いて行くのは、なかなか大変だ。『SHELL and JOINT』は、平林の最初の長編映画への取り組みであり、彼は、初めて長編映画を撮影する多くの短編映画の監督が陥る、最も一般的な罠のひとつにはまったようである。コンパクトでひとかたまりの物語的な語り口を編み出す代わりに、いくつかの短い物語を考え、どうにかそれらを繋げようとした。しかし、自分の戦術で上手く作った様に見えるが、ある程度失敗もしてしまっている。五十人の俳優で構成されているキャストは、それぞれのシーンで非常に優れているが、とりわけホテルのフロント係を演じる筒井真理子と堀部圭亮を中心にその事実を証明している。
『SHELL and JOINT』には芸術性と多くの優れたアイデアがあり、観客を笑わせる場面がある。 しかし、映画の上映時間を正当化する程ではない。それはとても残念なことである。なぜなら、平林はメディアの技術的側面に関する優れたアイデアと、適切に操る能力の両方を持ち合わせているように思えるからだ。

(写真は出演者であり翻訳して頂いた曽根瑞穂さん)

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