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映画祭日記(2020年ヨーテボリ映画祭)

ロッテルダムからスウェーデンのヨーテボリ映画祭に来ました。

アムステルダムから1時間半ぐらいで着いて、特に出国審査も入国審査も無いので、東京から博多に行くような感じでしょうか。ヨーテボリ映画祭のメインスポンサーがボルボなので、空港から市内までボルボの最新車で送ってくれました。私たちのクルーは9人いるので、大型車2台に分乗して行きました。ヨーテボリって、ボルボの本拠地なんですね。

お昼ごはんを食べて、ちょっと昼寝をしてから『SHELL and JOINT』の上映に向かいました。上映前にはスタッフ全員がスクリーンの前に並びました。『SHELL and JOINT』は4回上映があるのですが、すべてSOLD OUTなんです。だから、私たちも上映を観ることは出来ませんでした。当日券のチャンスを求めて来てくれた人たちもいましたが入れませんでした。

上映が終わる頃に劇場に戻り、Q&Aが始まりました。劇場に入ったらもの凄い温かい目で迎え入れてくれました。あるいは、ちょっと変わった人間を見る目だったのかもしれませんが。ロッテルダムの時よりも突っ込んだ質問が来ました。そして、毎度恒例の音楽についての質問がありました。音楽の印象がやっぱり強烈なんでしょうね。

さらに、セリフが何も無くて長回ししているシーンと、シーンの間ずっとセリフを喋り続けているシーンが混ざってますが、どういう意図ですか?という質問が来ました。私は前々から『SHELL and JOINT』を動物園のような映画にしたかったんですと答えているんですけど、ここでももう一度その説明をして、さらに、動物園に行くとずっと寝ていてシッポだけがかすかに動いている動物もいれば、動き回っている動物もいますよね、みたいな風に答えました。

正直に言えば、全体バランスのニュアンスでしかないとも言えるのですが、ヨーロッパの方々には論理的説明をした方がいいと、10年以上前から聞いてましたのでそうしました。ここは私は常に意識しているところでもあります。

「制作意図なんか話しません。テーマなんかありません。いま観た映画が全てです。感じて下さい。」みたいな、作品を言葉で説明するなんて野暮だという価値観は、日本では割と普通だと思いますが、それをヨーロッパでやると、自分たちよりも知的レベルが低い監督が作ったものだと認識され、監督自身も興味を持たれなくなります。

とても面白い作品を作って、三大映画祭で上映されるまでになったのに、質疑応答でふざけたりはぐらかしてばかりいた監督が、遂にはヨーロッパの映画祭から呼ばれなくなった話を聞いたことがあるんです。ヨーロッパにも「狂人」みたいな監督がいますが、狂人かもしれないけれども、自分たちには計り知れない哲学を持っていそうな感じはありますよね。私はキャラ的に、全く狂人にはなれないですし、どちらかというと「着ぐるみ」に近い方なんで、誠意を持って語り尽くすしか無いんです。

そして、カンヌ映画祭とかの常連の日本人の監督たちは、ジャーナリストの人たちに対して、ものすごく時間をかけて丁寧に自分の作品について語ると聞きました。意図を説明することを野暮だと思うのか、意図を説明するところまで含めてアートやエンタメだと思うのか、大きな違いがある気がします。そして、どっちが良いかは監督自身が決めればいいと思いますけど、映画をアートと捉えて、コンテクストのあるものだとしっかり語る監督の方が、海外では自分の居場所を作れる可能性が高まるんだと思います。私は意識しているとは言え、もっと深くコンテクストについて考えて映画を作らなきゃダメだなと思ってます。特に長編映画に足を踏み入れたからには。

私はどちらかというと、こう見えてペラペラ話すタイプではないので、なるべく意識的に意図を話す様にしようと思ってます。そして、まだ完全に通訳の方に頼っているので、1〜2年のうちに、英語で全部答えられるようにしたいとも思ってます。ダイレクトに質疑応答が出来たらどんなに楽しいかとも思いますし、より制作意図のディティールやニュアンスも伝えることが出来ると思いますので。そして、英語力を手に入れたら、『まだ間に合う!白髪が生えてきてからの英会話術』という本でも書こうと思います。

劇場からホテルに戻ったら、手塚眞監督がいらっしゃいました。手塚眞監督の『妖怪天国』のレーザーディスクを、高校生の時に買ってた事もあり、まさかヨーテボリでお目にかかれるとは思わず、すごく嬉しかったです。高校生の頃の私は、大人になったら特殊メイクの仕事に就きたいと思っていたこともあり、特殊メイクや特殊造形を本格的にやっている『妖怪天国』という作品が日本で作られているのを知って、レーザーディスクを買ったんです。

私が特殊メイクの道を諦めたのは、彫刻的で立体的な把握力と再現力が弱いと自覚したからです。サラサラっと空間を感じる絵が書けないのも、同じ理由からだと思います。鉛筆デッサンは訓練して描けるようになりましたけど。

手塚監督とはお酒を飲みながらお話させて頂きました。手塚監督も基本的にはインディペンデントのスタンスで作品を作っていますし、短編映画を作ったり実験映画を作ったり、とても親近感を持ってお話を聞きました。ここには書けないような話も聞きましたが、世界中のインディペンデント作家の悩みは世界共通なんだなと思う話もありました。そして、すごく勇気や希望も頂きました。早く次の企画書を作って動かしたい!と強く思いました。

ヨーテボリ映画祭は4回の上映があるのですが、上映に立ち会うのは1回で、すぐにアメリカのスラムダンス映画祭に向かいます。ここまで、体調は良好です。

(写真はヨーテボリ映画祭のカタログで、Visionaries部門の表紙になっている『SHELL and JOINT』のワンシーンです。)

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