見出し画像

全部自分でやる事は良いことなのか?

私はフリーランスで映像のディレクターをしています。仕事の範囲を最小限にすると、演出という仕事だけしていれば成立する仕事です。究極的に言えば、道具は何も要らない仕事です。手ぶらで出来る仕事とも言えるかも知れません。

とはいえ演出の仕事は、自分の思い描いていることを、各パートのスタッフの方々に、出来るだけ具体的にはっきり伝える必要があるので、メールはもちろんのこと、図解したり、映像にして見せたり、コンテにしたりして、現実には手ぶらで仕事は出来ていません。

演出の仕事は、イメージを描く仕事だと思われるかも知れませんが、それよりも伝える熱量の方が何倍も大事だと思っています。自分ではカタチに出来ないことをカタチにしてもらうためには、伝えなければどうにもならないからです。

私はどちらかと言うと、伝えるのが面倒くさいと思ってしまうタイプなので、気心の知れたスタッフとばかり仕事をしています。そうすると、まず自分を知ってもらう前提が省けますし、私のやりたい方向性を知ってくれていますから楽なんです。「楽」なんて書くと怒られそうですが、だからこそジャンプ出来る可能性があるとも思っています。

私は伝えるのが面倒くさいと思ってしまうタイプですが、気心の知れたスタッフにすら伝えるのが面倒くさいと思った時、全部自分でやってしまおうとするんです。

全部自分でやるって、良い事なんですかね?

私の中では、いまのところ実は結論が出ていまして、「全部自分でやらない方がいい」なんです。でもこれは自分の負担を軽くする措置としての、「全部自分でやらない方がいい」なんです。2011年の年末に過労で倒れた事がありまして、それをきっかけに考えを改めました。

たぶん、あの時死ななかったのは、自分から白旗を上げた事なのかも知れません。「このまま働いていたら死ぬ」と思ったんです。自分で思ったのか、ヨーダが現れて伝えてくれたのか分かりませんが、死ぬと思ったんです。そしてすぐにタクシーに乗って救急窓口に行き、医者に診てもらいました。椅子に座るなり先生は「働きすぎでしょ?」と聞いてきました。私からは何も言ってないのにです。

その頃の私は、エアコンが効いた家の中でもダウンジャケットを着ていて、体温は35度前後で、脈拍が35〜45ぐらいしかありませんでした。線香花火が一通りパチパチした後に、ジジジジと震えて、落ちる直前の感じでしょうか。

私はすぐにその時やっていた仕事を全部キャンセルしました。その時、10以上の仕事を掛け持っていました。しかも、演出はもちろんのこと、編集やテロップの文字のデザインまで自分でやっていました。だから、寝る時間もなく、ズーッと仕事をしていました。

倒れたあの時、「全部自分でやらない方がいい」と決めたんです。

でもですね。でもなんです。自分でやった方が自分の頭の中のイメージが、そのまんまアウトプット出来るのも事実なんです。編集の1フレの差だったり、ズームの1%の差だったり、テロップの文字の大きさだったり。

ちょっと細かい話になりますけど、95%〜100%のズームと、98%〜100%のズームって全然違うんです。95%〜100%のズームは早いんです。ジワーッとズームさせるには、98%とか99%から始めないとダメなんです。

そういう細かい指示も、熱量を持って伝えれば出来るんですけど、自分でやった方が早いとも思ってしまうんです。だから、あの時倒れたにも関わらず、やっぱり自分でやりたいなあと思ってしまうんです。やればやったで、もちろん負担が増えて過労になって行くんですけど。「自分でやった方が早い」という言葉が、悪の言葉だというのも分かっています。

初めて作った長編映画の『Shell and Joint』では、監督・脚本・撮影・編集をやりました。細かく見ていくともっといろんな事をやっていますが、やっぱりメチャクチャ大変でした。完成させた後、2ヶ月ぐらい燃え尽き症候群が原因なのか分かりませんが、頭がフワフワしてました。脳をMRIで調べたり、甲状腺を調べたりするほど体調不良になりました。

でも、完成した作品は隅から隅まで自分が作りたい様に作ってる作品になったんです。良くも悪くもでしょうけど。「観客のために」とかじゃなくて、「自分のために」作ってますから。だから、劇場公開される際には、「発掘された土偶」を見るような気持ちでご覧いただけたらと思っております。「へ〜、こんな土偶を作った人がいるんだね〜。用途が分からないけど、まあ作ったんだろうね。へ〜。」と思って頂けたらと、願ってやみません。

もちろん、全部自分でやらない方がクオリティが上がることだってたくさんあります。むしろそっちの方が多いとは思うのですが、この、自分で全部やりたくなる衝動は、一生無くならない気もしていますし、ずっと葛藤していく問題なんでしょうね。

ちなみに、仕事で言いますと、演出だけをやっても、演出・脚本・撮影・編集・デザインまでやっても、基本的にはギャラは変わらないことが多いです。これは私の体験なので、いろんなケースがあるとは思いますが、私の場合はそうでした。10年ぐらいかけて、何十回とトライした結果、ギャラは変わらないという結論に達しました。たぶん「撮影とか編集も自分でやりたいんでしょ?」と思われてるからなんだと思います。

この「こっちから頼んだ事にはお金は払うけどそっちからやりたいと言ったことにはお金は払わない問題」については、またnoteでじっくり書きたいと思います。クリエイティブな仕事の報酬についての核心だと思いますので。

さてと、チラシのデザイン仕上げなきゃ。

サポートして頂けたら、更新頻度が上がる気がしておりますが、読んで頂けるだけで嬉しいです!