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映画祭日記(2020年ロッテルダム国際映画祭)②

3日目は、ロッテルダム国際映画祭の中心部から少し離れた劇場での3回目の上映がありました。

上映前に、工藤綾乃さんと2人で挨拶をし、今回は席が足りなかったので、まだロッテルダムで『SHELL and JOINT』を見ていない、照明の野村さんとカメラマンの古英さんに観てもらいました。

上映が2時間半あるので、その間に日本からいらしていた相原裕美さんにいろんなお話を聞きました。相原さんとは久しぶりにお会いして、確かかつてベネチアかカンヌでお会いして、その後、トニー・レインズさんが来日した時の「トニーさんの会」でもご一緒させて頂いた記憶があります。

私たちは長編映画を作り、それを海外で広めるにあたってどうしたらいいのかを聞きました。結果として『SHELL and JOINT』は、もう手遅れという状態でもありました。やはり、企画の段階から海外のセールスの人たちと組んでやる必要があるそうです。そして、作品のテイスト的に、どこの映画祭でワールドプレミアを使うかを決めて、その映画祭の前にいろんなメディアに取り上げてもらい、盛り上げる必要もあるようです。本当に知らないことばかりですが、これを知って実行している日本のチームはそんなに無いようにも思います。なかなか大変ですからね。でも私たちは次回作はそこに突っ込んでいこうと思います。

相原さんと話していて印象的だったのは、日本映画の技術的なクオリティが低すぎて、映画の内容以前に映画祭で上映するレベルに達していないという話でした。この話は今までもしばしば聞くことがありました。それに比べて、韓国を始め、どんどん映画を作り始めているアジアの映画のクオリティが、日本よりも上にあるので、アジアの映画として日本の映画が選ばれなくなっている様です。ここは本当に真面目に考えないとまずい問題です。

実はここはすごくポイントでもあるのですが、私の短編映画が映画祭に選ばれやすいのは、内容もあるのかも知れませんが、たぶん映画祭での上映のクオリティに耐えられるレベルで作っているからというのもあると思っています。特に音です。最低限、音のクオリティがちゃんとしていれば「上映」という意味では耐えられますが、音のクオリティが低いと、映画の内容の前に弾かれていまいます。私はかつて、画質の悪いハンディカムで作った短編があるのですが、音はMAルームに入ってプロにやって貰った事がありました。その作品はいろんな映画祭に決まりました。画質のレベルは低かったですが、音のレベルが上映に耐えられたからだと思います。

あと『SHELL and JOINT』はやっぱり長すぎた感はあります。相原さんには笑って「監督がやりたいと思ったら止められないよね~」と言って頂きましたが、長編第一作や第二作を広く世界に知らしめるためには、なるべく短くして、上映されるチャンスを増やした方が良いという話は、もう本当に納得しかありませんでした。ウンウンウンウンと納得しすぎて、首がもげるかと思いました。これから初めて長編映画を作って海外に打って出ようと思ってる人は、絶対にそこを意識した方が良いです。私は次の長編は65分目標に作って、結果的に85分とかになったらベストかなと思っています。というか、78分にするんだよ!おまえ!

あと、海外と国際共同制作する話もすごく興味深かったです。日本の映画会社と共同制作しても、出資していないプロデューサーには成功報酬が入る仕組みが日本には無いので、日本と共同制作するメリットが全く無いとの事です。だから、ヨーロッパのプロデューサーは日本のチームと共同制作する気は全く無いそうです。

そりゃそうですよね。ビジネスにならないんですから。日本では「監督にすら」興行収入に対しての権利が無いですからね。例えば、オリジナル脚本を書いて、人生をかけて監督をしても、興行収入に対する権利は出資者が持ってて監督が持ってないって、なかなか凄いです。どういう理屈なのか知りたいですけどね。映画祭とか劇場公開の舞台挨拶で「私が監督でございます」「私の作品でございます」と言ってるのに、権利が無いって…。本当は作り手側も「クリエイティブ」という形で出資しているはずなんですけど、お金至上主義は、いかにも日本らしいとも言えます。出資者に権利が行ってしまうなら、良い作品が出来た後に出資したらリスク無いですし。あるいは「権利が欲しかったら出資しろ、でもお前ら監督は貧乏だから、そんなお金持ってないと思うけどな。」という感じでもあるんでしょうか。

韓国を始め台頭してきているアジアの国々は、権利周りが国際標準になってるので、ヨーロッパのお金が入りやすく、結果的にクオリティの高い映画が作れています。いまの日本の状況は惨劇ですね。

映像制作の環境に対する問題意識はやっと少しずつ共有され始めていますけど、その次には権利問題にもメスが入ったら良いのになと思います。それともそこはアンタッチャブルで、そこに触れたモノは怪死する、とかがあるんでしょうか。歴代の錚々たる監督達ですら勝ち取れなかった権利ですから。すみません。もう言いません。勘弁して下さい。

私は海外の映画祭に通じている方と話すことが多いのですが、本当にお話させて頂く度に、私がやるべきことがハッキリと分かって来ました。一方でそれは、日本の映画業界で自分の居場所を作るのとは、真逆の部分が多くあります。どういうスタンスで映画を作っていくのか、というのは自分で決めなければなりません。先日『37seconds』の山口プロデューサーと話した時も、その話になりました。そして私たちの結論は、日本の映画業界の慣例に迎合すること無くやりましょうとなりました。険しい道かも知れませんが、少しずつそういう仲間たちが増えていけばいいなと思います。実は応援してくれるそれなりの地位にいる人たちは、日本の中にもいっぱいいますから。

そして、『SHELL and JOINT』の上映後に、舞台挨拶をしに行きました。ここでも音楽について聞かれました。世界を目指したければTakashi Watanabeに音楽を作ってもらうと良いと思いますが、忙しくなると私の作品をやってくれなくなる可能性があるので、ほどほどにお願いします。あとは、2時間半の作品だったけれども、全然長く感じなかったと強く言ってくれた女性もいました。その方もフィルムメーカーで、自分が教えてる学校の生徒全員に観せたいと言ってくれました。

上映後には、2つの取材がありました。1つ目はポーランドのアジア映画サイトの方でした。「なぜ『SHELL and JOINT』の取材をするんですか?」と聞いたら、「トニー・レインズさんから、すごい映画があると聞いてたんで。」と言ってました。本当にトニーさんには15年ぐらい前からお世話になりっぱなしです。その方は、私とタイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督の作品を一緒に上映した、何年か前のバンクーバー国際映画祭の事も知っていました。そのプログラムもトニーさんのキュレーションでした。残念ながらロッテルダムではトニーさんに会えませんでしたけれども。

2つ目の取材はイランのメディアの方からの取材でした。かなり突っ込んだ話をされました。日本人の自殺に対する考え方とか、核家族についても聞かれました。でも『SHELL and JOINT』は、今までの日本映画と明らかに違うので「日本映画のニュージェネレーションだ!」と言われましたが、P達が「監督、そんな若く無いですけどねwwwwww」と言ってました。おい!

ロッテルダムでの3回の上映はあっという間でしたが、メチャクチャ収穫がありました。もうちょっとロッテルダムにいたかったけれども、ヨーテボリに向かいます。

(写真は、私が海外の方に『SHELL and JOINT』を売り込んでいる風のヤラセ写真です。)

【追加】

誤解のないように追記しますと、日本映画でもお金をかけた作品の技術的クオリティは高いのですが、テーマとして海外の映画祭に選ばれづらく、自主制作映画はテーマは面白いけど、技術的クオリティが低くて、海外の映画祭に選ばられづらいという事です。

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