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インバウンド対応には何語が必要? 2023年の訪日外国人観光客のデータから考える今必要な外国語


はじめに

今年はメニュー翻訳や某観光協会のインスタグラム投稿など、いわゆるインバウンド対応の日英翻訳のお仕事をいただく機会がありました。しかし本当に英語でいいのかしら?英語にするにしても、これを読むのは一体どの国の人でどれくらい英語がわかるんだろう?という問題がずっと気になっていました。

果たして今年日本を訪れた外国人観光客はどこの国の人が多かったのか。その人たちとコミュニケーションを取るにはどの言語で準備をすればいいのか。この記事では日本政府観光局の訪日外客数のデータをもとに、今インバンド対応に必要な言語を考察します。

2023年10月に訪日外国人観光客数はコロナ前のレベルに戻りました

図1. 訪日外国人観光客数の推移

図1は日本政府観光局が発表している訪日外国人観光客数の推計値をプロットしたものです。黄緑色は2019年のデータで、2019年当時は年間を通じて1ヶ月あたり240万人前後の人が外国から日本に観光に来ていたことがわかります。濃い緑色は2023年のデータで、年始から訪日外国人観光客の数は次第に増え、10月にはほぼ2019年と同じレベルにまで回復したことがわかります。またこの傾向が続くなら、今後も訪日外国人観光客の数は増えるのかもしれません。

どの国からの観光客が多かったのか?

図2. 国別にみた2023年1月〜10月の訪日外国人観光客

図2は今年日本を訪れた外国人観光客の国別の割合を示したものです。一番多かったのは韓国で28%。続いて台湾17%、中国9%、米国8%、香港8%と、東アジアだけで50%を越えることがわかります。

割合が多かった国の言語に注目すると、韓国は公用語が韓国語、台湾の公用語は中国語の一種である中華民国国語(繁体字中国語)、中国の公用語は標準中国語(簡体字中国語)、米国の公用語は英語、香港の公用語は中国語英語となります。

つまり、割合の多い順にインバウンド対応の言語を用意するなら、英語よりもまず韓国語や中国語(中華民国国語、標準中国語)ということになりますが、それぞれの国の言葉を用意するのはあまり効率的ではありません。

英語力からみた訪日外国人観光客

英語は世界語と考えられることが多い言語ですが、訪日外国人の方は果たして英語を理解できるのでしょうか?それぞれの国の人は英語をどのくらい理解できるのかを、世界各国の英語力を220万人を越える受験者のテスト結果から推定した、2023年版EF EPI 英語能力指数のデータPDF)を使って考えてみたいと思います。

EF EPIの英語能力世界ランキングによると、日本は113カ国中87位で「低い」、韓国は49位で「標準的」中国は82位で「低い」となっています。台湾は残念ながら2023年度版のランキングに含まれてないのですが、さかのぼって2019年版のランキングでは100カ国中38位で「標準的」となっています

このランキングでは英語力を「非常に高い」、「高い」、「標準的」、「低い」、「非常に低い」、の五段階に分けています。そこで図2のそれぞれの国について英語力を調べて、英語力ごとに訪日外国人観光客の割合をプロットしたものが図3です(台湾に関しては2019年版のデータを使っています)。

図3 国の英語力別にみた2023年1月〜10月の訪日外国人観光客

まず、図3からみてとれるのは、およそ半数の49%は英語力が「標準的」だということです。英語が公用語、つまり英語ネイティブの人の割合は14%とごく一部です(香港は英語力が「高」となっていたので英語ネイティブからは除外してあります)。ここに英語力が「非常に高い」国と、「高い」国の割合を足しても29%と全体の3割弱です。

つまり、メニューや説明を「標準的な」英語で用意すると、英語力が「標準的」な国の方まで、全体の78%と8割弱に理解してもらえるのではないかと推定できるのではないでしょうか。また同時に、英語を使うにしてもやさしいわかりやすい表現を使うのが無難なことをこのデータは示しているのではないかと思います。

インバウンド対応に必要な言語

英語には世界語のイメージがあります。そこでインバウンドに対応するためにとにかく英語を英語ネイティブのように話して書いて準備しようとする方もいらっしゃるかもしれません。

しかし図3からわかるように訪日外国人観光客に占める英語ネイティブの割合はわずか14%。ネイティブじゃないとわからないような英語を用意してしまうと、ごく一部の人にしか通じないことになってしまいます。英語が第二言語の層である、韓国や台湾の方などを意識してやさしいわかりやすい表現の英語を使えば、全体の8割、もしかすると英語力が「低い」国の人も含めた全体の9割に通じるかもしれません。

また、英語の次の言語としては、訪日観光客数が全体の第2位で英語力が「低い」と考えられる中国の方用に標準中国語(簡体字中国語)を用意しておくと役立つかもしれません。

まとめ

この記事では、日本政府観光局の2023年の訪日外国人観光客数のデータとEF EPIの世界各国の英語力ランキングをもとに、インバウンド対応に必要な言語を考察してみました。訪日外国人観光客の半数以上は東アジアの韓国、台湾、中国の方。つまり、インバウンド対応にまず一つ外国語を用意するなら、必要なのは国際共通語としてのわかりやすい英語であることがデータから明らかになったのではと思います。

そして、韓国や台湾の方の英語力が「標準的」で中国の方の英語力が「低い」という推定を踏まえると、英語の次に用意すべきは中国の方向けの標準中国語(簡体字中国語)ではないでしょうか。

と、ここまで考察しておいてなんですが、英語力はきっと人それぞれ。また特定のお店や地域をどの国の人が訪れているのかについても、きっとこの全体データではわからない特徴があるのかもしれないと思います。例えば、金沢市の観光地に住む私は日々訪日観光客の方々を目にしていますが、圧倒的にヨーロッパの方が多い印象だったので今回のデータを見て驚きました。

お店によって地域によってインバウンド対応の最適解は違ってくると思います。それでもこの記事で紹介したEF EPIの各国の英語力データは英語が使えるのか、英語ではない言語を用意するとしたら何がいいのかを考えるヒントになるのではと思います。

インバウンド対応のメニューやインスタ投稿などの日英翻訳承ります。お仕事依頼はnatsumi.kajii@gmail.comまでお気軽にご相談ください。


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