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O山くんの「おちんぎん物語」


はじめに


このnoteは、「いち理学療法士」である一人の日本人が、どのように考え、行動して「理学療法士としての業務」以外のものを獲得し、医療機関という組織の中で「おちんぎん」を増やしていったのか、という話が描かれています。

この物語は、ある日本人の実話に基づいて構成されていますがフィクションです。実在する人物や団体とは、関係ありませんので、ご了承ください。あくまでも物語です。


また、この物語に描かれているものは、「理学療法士」以外の方でも、転用できる「仕事や給与に対する考え方や行動の起こし方」も盛り込まれています。自分の働き方に対し、漠然とした不安を抱えている方におすすめです。もちろん「理学療法士」にもおすすめです。特に不安を抱える新人や若手、働き方や動き方に悩む中堅の理学療法士の方々は是非、読んでいただきたいと思っております。


物語の背景


理学療法士は「疾患別リハビリテーション」を提供する場合において、1日24単位まで、さらに週に108単位まで、という制限を受けます。そのため「疾患別リハビリテーション」という業務のみに従事している場合、その理学療法士が出せる利益は、ある程度決まってしまいます。単位のみで稼働率が限度に達してしまえば、それ以上の収益は見込めなくなります。(月1回のみの患者が増えれば計画管理料の分、収益上がる!というような考え方もありますが、それを行っていても、いずれは頭打ちになる事は想像できますので、ここでは割愛させていただきます)

理学療法士業界は、このような現状なので「理学療法士の給料は頭打ちだ!」とか「頑張ったって頑張らなくたって給料あがらないから意味ない」とか「めちゃくちゃ勉強しまくったって、給料上がらないじゃん!」、さらに「理学療法士の未来は暗い!」という声を耳にする場面が少なくありません。こういう声を聴くたびに、この物語の主人公は、こう考えます。

「本当に、そうなのか?」
「何か、上手いこと“おちんぎん”が上がるやり方があるのではないか?」
「業界全体の傾向は知らんけど、個人のやり方次第で、未来は明るくなるだろjk」

この物語の主人公は、このような思考を元にして、様々な働き方を模索していきます。さて、遅くなりましたが、この物語の主人公を紹介しましょう。彼は「O山くん」、とあるクリニックで働く理学療法士です。基本的に楽をして生きていきたいタイプの人間です。彼の人生がどのように展開していくのか、楽しんでいただければ幸いです。※決して私ではありません。あくまで物語です。


プロローグ:よぎった思い。そして気づき

O山くんは、整形外科と内科を標榜している一般的なクリニックで働く理学療法士だ。通常のリハビリテーション業務は、そこそこ忙しい方で、一日21単位以上、稼働率90%程度が求められていた。

入職して数年が経ち、何となくではあるが、自分の立場や求められているもの等が掴めてきていた。できる限り多くの単位を取り、後輩スタッフの教育、指導を行う事だ。

これは多くセラピストが通る道である。後輩が出来れば、知識や技術の指導をする。そしてリハビリテーション科としての地力を向上させて、来院される患者に還元するのだ。そして単位をがっぽり稼ぐのだ。職場の先輩達からはそう教わったし、それがベストだ!とさえ思っていた。

ただ、働けど働けど、待てど暮らせど、思っていたほど「おちんぎん」は増えていかない。リハビリテーション科としての「収益」は上がっているのに関わらず、「おちんぎん」は増えていかないのだ。年に「数千円程度」だ。

当時、某元招待制コミュニティサイトでも、同じような嘆きを何度も見た。現在に至っても、某SNSで語られるセラピストの嘆きだ。

そんなある日、彼の頭の中に、このような考えが生まれた。

「このまま、単位を限界まで取ったり、今あるリハビリテーション科の業務だけやっても、“おちんぎん“はふえない気がする…。」

このような事を思うセラピストは少なくない。疾患別リハビリテーションに従事するセラピストには「1日24単位まで」「週108単位まで」という制限がある。

どう考えても、疾患別リハビリテーションのみで組織に貢献しようとしても限界があるのだ。実際に、お香のセラピストの「おちんぎん」はなかなか上がらない。これは某SNSで語られる嘆きからも、明らかである。

その時の彼は、さらに、こう考えた。

「理学療法士が、理学療法士としての働き方しかしていないから、“おちんぎん”が中々増えてないのではないか。もしかして、“理学療法”以外で組織の収益に貢献できれば、もっと儲かるかもしれない。」

この思いが「気づき」となった。そして、この「気づき」は的を射ていた。O山くんは「理学療法士」であるが、その前に「組織の一員」であり「一人の人間」である事に気づいたのだ。事実、多くのリハビリテーション職の者たちが、その枠内でしか物事を見れていない例を多く見てきた。そう、組織の収益へ貢献するには、「リハビリテーション」のみに囚われる必要はないのだ。

「もっと幅広く、自分にできる事を探し、組織への貢献に繋げていく。」
それができれば、「おちんぎん」がもっと増えるかもしれない。O山くんは、そう考えた。

さて、彼は今後どのような働き方をしていくのだろうか。その中で彼は何を学び、何を得るのだろうか。その答えを少しずつ綴っていくとしよう


第1章:ボランティアから仕事へ。


   O山くんがクリニックで働き始めて数年が経った頃から、新人や若手スタッフに対して、研修的なものを行っていた。内容は「リハビリテーション」に関するものが主としていた。

養成校ではあまり習わない診療報酬や介護報酬などの制度、実際にリハビリテーションを行うための理学評価や疾患の知識、リスク管理などを指導だ。また、徒手療法や運動療法などの実技指導やディスカッションも精力的に行っていた。

研修を行うにあたって、様々な知識を調べまとめる行為は、自身の知識のブラッシュアップにつながった。それは、O山くんの知的好奇心を満たし、確実に自信を成長させるものでもあった。

さらに、実際に指導することにより、スタッフの得意なことや不得意なことが分かってくる。その気づきを元にして、また違う視点を用いた指導のやり方を考える。後輩の特性に合わせたものを提供する。

これは自身の研鑽と、後輩への指導を継続するモチベーションに繋がった。余談だが、この頃は指導に関する役職も手当てもない。ボランティアの精神である。そうしてO山くんは、職場で仕事とボランティアに勤しむ毎日を送っていた。


そんなある日のことである。O山は法人の幹部に呼び出された。要件は伝えられていない。(何かやらかしたかな…。思い当たる節が多すぎる…。)そんなことを思いながら、幹部のもとへ向かった。しかし、幹部がした話は、まったく別のものだった。(助かったぁ…。)正直そう思った。幹部から告げられた内容は、次のようなものであった。

「新人や若手の教育や指導を良くやってくれている事は聞いている」


「今後は年度ごとに計画を立てた上で、やってほしい」


「というわけで、教育担当のリーダーとして頑張ってくれ」

 自主的に、ボランティア的に行っていた活動が仕事になった瞬間である。

O山が働くクリニックでは、年度ごとに各部門の責任者が事業計画を立てていた。リハビリテーション科には、「外来」「通所」「訪問」の3部門があり、それぞれに責任者がいた。

O山は、その責任者達と肩を並べる位置に、新しい部門「教育担当」として入ったのだ。平社員が、他の部門の補佐や責任者を経ずに、完全に新しい部門の責任者となった。

出世の喜びとともに、とある感情も生まれた。そう、不安である。まず何をしていいのか分からないのだ。どれだけ考えても分からない、諸先輩方に聞いても分からない。そのような状態になってしまうのも致し方ない。なぜなら、そのクリニックで、それに相当する業務は今まで無かったのだから。

「教育研修の計画か。みんな分からないようだし、とりあえずネットで色々見てみよう」

現在は凄い時代である。職場の諸先輩方に聞いても分からなかった情報が湯水のように溢れている。

このように、考えても分からないことは、まず調べる。調べて考えて組み立ててみる。ある程度、組み立てができた段階で、他者に相談する。そしてディスカッションをしながら作り上げていけばよいのだ。これはO山が「何かを作り上げる時」のベースとなっている考え方である。

調べていく中で分かったことは、教育研修計画は「ある目的があり、それを達成しうる人材を育成するために計画されているもの」が多いということだ。

「ある目的、つまりこの計画が目指すべきゴールと、どのような人材に育って欲しいか、この2点を抑えて作成していこう。」

O山の働くリハビリテーション科では、年度ごとに「行動目標」と「達成目標」というものを立てていた。大雑把に説明すると、「行動目標」は職員としてどのように行動していくか、「達成目標」は具体的な数字で出せる「売り上げ」や「稼働率」である。

「リハビリテーション科の教育研修計画なのだから、これらを踏まえたものにすれば良いのだな。」とO山は考えた。

来年度の「行動目標」は「患者に寄り添い、質の高いリハビリテーションを行う」「積極的に学び、実践する」の2つだ。非常に抽象的な目標である。しかし、問題はない。抽象的な行動目標に沿った具体的な教育目標を立てればよいのだ。そのために何をすればよいか。まずは分解してみよう。

一つ目の行動目標は”患者に寄り添い””質の高いリハビリテーション”に分ける。そして、それぞれを達成するために何が必要かを考えて、それをゴールとする教育目標を立てるのである。

”患者に寄り添い”。これに必要なものを挙げていこう。

まずは相手が何を目的として、このクリニックに来ているのか知らないといけない。そのためには「医療面接(いわゆる問診)」を適切に行う力が必要だな。相手の訴えを丁寧に聴取できるよう「傾聴」も必要だし、相手の訴えや目的を適切に引き出すための「対話」も必要だ。

さらに、「寄り添う」ためには、相手から信頼されるように、相手に合わせて接し方を変えられる「対応力」も必要だし、相手に満足感を与えられるような「接遇」も必要だな。

これらをまとめて「コミュニケーションスキルの向上プログラム」。これを教育研修計画のひとつにしよう。

続いて、”質の高いリハビリテーション”...。難題である。

そもそも”質の高い”って何やねん...そもそもの基準が分からない。何をもって”質の高いリハビリテーション”と言えるのか。自信を持って言える理学療法士がいるのであれば見てみたい。その時のO山は、そう思った。しかしながら、そのような事を考えていても前には進めない。こういう時のO山は直ぐに思考を切り替える。そしてこのように思考を繋げる。

「”質の高い云々”は分からないけど、”質を高める”なら分かる。”質が高くなったかどうか”という評価も効果判定を工夫して行えば可能だ。”質を高める”に焦点を当てて考えていこう。」

まず、リハビリテーションにおける”質”を定義しよう。リハビリテーションの”質”に関しては、方々で議論されているが、一般論では抽象的すぎるかもしてない。それなら、この現場で明確に定義して方か分かりやすい。そして、O山は定義をふたつ設定した。

ひとつは、”患者の目的、希望の達成”。これは非常に重要な事であるとO山は考えている。患者は何かを改善したくて、もしくは何か困っていることがあってクリニックに来るのだ。その目的や希望を達成できるかどうかが重要で、医師の診察や、リハビリテーションを受ける事は、その患者のゴールではない。多くの場合、目的地は診療とリハビリテーションの先にある。それをどの程度達成できるか。そして対象者の満足度をどれだけ充足させる事ができるか。これは対象者視点の”質”と言えるだろう。

もうひとつは、”リハビリテーション計画及びプログラムについて、明確に説明できるかどうか”。細かくすると、そのリハビリテーション計画とプログラムは、何を目的としているか、その目的の為に達成すべき課題は何か。課題解決の為のプログラムはどのようなものか。どのような方法でプログラムの効果判定を行うか。おおよそどのくらいの期間で、どのような変化が見込めるか。そして何を以ってリハビリテーションを終了とするか。これらに対し根拠をもって明確に説明できるかどうか。という事である。これは提供者視点の”質”だ。

「対象者と提供者、それぞれからみた”質”という定義であれば十分だろう」と、O山は考えた。

さて、次は、それぞれの質を高めるために必要なものを挙げていこう。まずひとつめの”対象者視点の質”。これを充足させるためには、対象者が何を目的としているか、そして、どのようなものを求めているかを明確にしていく必要がある。

「あれ、待てよ...これって...”患者に寄り添う”の所で考えてたものが使えるんじゃないか?」

患者に寄り添うことにより、ひとつめの定義が充足されている可能性に気づいた。この気づきにより考えることが大幅に減った。この”対象者視点の質”を高めるために「コミュニケーションスキルの向上プログラム」を方法のひとつとして設定した。

しかし、それだけでは不十分である。

コミュニケーションスキルだけでは、対象者の目的や希望を達成する事が困難であるからだ。稀に、他者と関わりたいがために来院する人もいるが、あくまでもそれはレアケースだ。

まず、目的や希望を把握するとともに、信頼関係を築くためにコミュニケーションスキルを磨く。そして、適切なリハビリテーションを提供することで、目的や希望の達成へと導くのだ。

適切なリハビリテーションを行うには…。

O山くんは、このような形で抽象的な目標を分解して、それぞれを考える。そして必要であれば、また統合し具体的な教育目標と、方策を練っていった。

その作業を繰り返し、翌年度の「教育研修計画」は出来上がった。座学(Off-JT)だけでなく、OJTや社外研修なども盛り込んだものにした。これらは、また次の章で紹介していこう。

そして、O山くんは、この依頼をこなしたことで、今までより多く昇給したことを伝えて、この章は終わりにしよう。

第1章 終わり。


今後も、おちんぎん物語は続きます。もしかしたら、まとめて投下するかもしれませんし、ちょこちょこ追記したものを上げるかもしれません。

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