ショートショート「あるドライバーの物語」

男は免許取得から無事故無違反の優良ドライバー。
今、依頼主の自宅前にて待機中。ハンドルを人差し指でトントンとさせながら、まだかまだかと待っている。

そこへマンションのエントランスから慌てて出てくる派手な女。

男はドアを開けて迎え入れた。

ガチャ

バタン

「どちらまで〜?」
男が女に行き先を聞く。
「渋谷の○○」
女が不機嫌そうに答える。
「かしこまりました。シートベルトのご協力お願いします」
「面倒くせぇなー」
「すいません。捕まっちゃうと困るんで」
「わかったよ。早く行けよ」

男はナビに行き先を打ち込む。
しかし、なかなか伝えられた行き先が出てこない。
「オイ 急げよ。時間ねぇーんだよ」
女が怒鳴る
「あっ、ありました。では出発しますね」
やっと車が走り出す。

女は携帯電話をピコピコやっている。
男は無言でしばらく運転に集中した。

「そこの交差点を左に行ったほうが早いようなので、そっちのルートで大丈夫ですか?」
男が一応確認する。
「最短だったら何でも良いから、とにかく急げよ」
女はやはり不機嫌そうに言った。
「今日はお友達と朝までですか?」
男は優しく問いかけた。
「うるせぇ。黙って運転してろ」
女は携帯電話ピコピコに忙しかった。

しばらく無言で車を走らせると目的地に到着した。
「お忘れ物大丈夫ですか?」
男が確認すると
「忘れ物は無い。じゃあ帰りまた連絡するわ」
と言って女は車を降りた。

足早に振り向きもせず、繁華街に向かって消えてゆく女の後ろ姿を見つめながら男はつぶやいた。
「俺たちって本当に付き合ってるのかな?」


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