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微妙にそんなモノ要らんがな

 アンタそれ何? と女房が玄関先に立ちふさがった。
 痩せて身なりの貧しい女が俺の背後からそっと姿を現す。
「田んぼで罠にかかってたんだ、ちょっと家で休ませてやれ」
 女房の一オクターブ上がった「は?」を聞かないフリして、奥の部屋に彼女を入れた。

 彼女は織姫と名乗った。そして機織り機と山ほどの糸を入れてほしい、奥の部屋は閉め切りにしてほしい、覗かないでほしい、と小さな声で要求した。
「いつ出てくんだろ」女房は聞こえよがしに呟く。

 数週間後、さすがに俺も気になってきた。一応、冷蔵庫とテレビもある。奥の廊下から風呂にもトイレにも行ける。しかしずっと、とんからりん、とんからりんと音が響くだけだった。

 俺はついに、そっと襖の隙間から覗いてみた。

 織姫は機を織りながらイヤホンでテレビを視て、脇の缶ビールをぐびぐび飲んでいた。

 やがて、覗かれたことに気づき、彼女は去っていった。

 彼女の織った長い長い反物には、今までの番組表が五色に織り込まれていた。


(410文字)


たらはかに(田原にか)さんの企画7/7の裏お題も参加できました。
くどいようですが、うちは七夕8/7派です!
よろしくお願いします。

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