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祈願上手、でも口下手でごめん

 えと……口に出してから下を向く。ことばが、どうしてもうまく出ない。
 祈願上手、と巷では噂されていたが、口下手なのはいつまでも直らない。
「先生!」中年女の臭い息が迫る。つい顔をそむける。
「コアちゃん、本当に帰ってきますよね!?」
 迷子猫を見つけてほしい? 神頼みかよ、オメー、隣近所這いずり回って捜したんかよ? 心の中では嗤っていた。でも、私が祈ればまず間違いはない。先週この女が泣きついた時に頂いた金額分は真剣に祈った。猫に罪はない。いくら、高価な純血種でも。
「ロシアンブルーのコアちゃんが品川区●●αの1508号室に必ず、帰ってきますように」と祈ったのだ。
「そのうち……」
「ええ?」女は更に迫り、私はますます顔をそむける。
「もう一週間だケド?」
 コアはちゃんと帰って来たのだ、祈ったその晩に。ただ、女がその晩も取り巻きの男らと一晩中飲み歩いて家に帰っていなかっただけで。
 猫にも見捨てられた女なんて、さすがに祈願上手でも救えない。

(410文字)

たらはかにさんの企画につい勢いで(マタカヨ)。よろしくお願いします。
あっ、霜月透子さんの祈願成就、もうすぐ発売。たのしみです!

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