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「だったらヅラを返せ」

 ふたりを支えるザイルがまた、嫌な音を立ててがくんと身体が下がる。
 切り立った断崖に宙ぶらりん、片手にザイルを握り反対は相棒の手首を握っているが、限界が近い。
「お宝を捨てろ」俺の言葉に奴はぐっと目をつぶり、それから肩掛けの袋を外した。黄金の詰まった袋はすぐ深淵へと消えた。
 まだヤバい。「空いてる手で脱げるだけ脱げ、靴も」奴は片手でベルトを外し、腰を振ってズボンを落とす、靴、靴下、下着も、そして口に咥えていた鉈の吊り紐を歯で手繰り寄せてジャケットを切り裂き、上半身も裸になった。俺も可能な限り装備を外す、靴に靴下、帽子、ヅラまで。
「駄目だ」奴が呻く。「まだ重過ぎる」
 もう少し軽く……「片脚を落とそう」俺は囁く。
「ひとり一本ずつ、その鉈で」
「いいのか」
「やってくれ」
 気づいたら俺達は大樹の根元に寝転がっていた。助かった。
 奴が汗と涙とで濡れそぼった顔で笑う。「これセーフだったよ」
 尻の穴から出したダイヤが暗がりに燦然と輝いていた。


(410文字)

ついつい楽しみにしてしまうたらはかに(田原にか)さんの毎週ショートショートnoteにまた参加してしまいました。
今回は素直に「友情の総重量」(もうひとつを先に書こうとして行き詰りました。少し考えてからまたチャレンジします)。
よろしく置いてください。
※ 読んでいて何となく違和感あってよくよく考えて、爽やかすぎる理由に思い当たり、タイトルと本文中の「ズラ」を「ヅラ」に変えました。いや、どっちだっていいだろう?って?
※ さらに重要な間違いに気づいて、ラストの一文を替えて急にお下劣になってすみません。いや、実はもともとお下劣なんです。
開き直るなー。

たらはかにさんの企画はこちら。

自身のショートショートはこちら、少し貯まってきました。


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