誕生日

覚えてるの 二十歳の誕生日
前の日にスーパーで買った安い缶チューハイ
夜中にみんなが寝静まったころ
日付が変わるのを待って
ひとりきりの真っ暗な部屋で
アルコール臭とかすかなリンゴの味
それが人生初のお酒だったの

覚えてるの 二十九歳の誕生日
物理的にはひとりきりで過ごした一日だったけれど
一日ずっとつながっている気がしていた
水族館に行って観覧車に乗って
二十九にちなんでお肉を食べて
いろんなことを終わらせた直後なのに
その分いろんなことが始まる気がしたわ

覚えてるの 三十一歳の誕生日
初めて他の人が私のためだけに誕生日ケーキを
三十一にちなんでアイスクリームの
ホールケーキにろうそくを立てて
部屋の明かりを消して歌って
吹き消した誕生日ケーキのろうそく
それが人生初の誕生日パーティー

いつの間にか年月は過ぎて
みんな大人になって年齢を忘れたりもして
だけど私はなぜか満たされていないの
取り戻せるものもあるけど
取り戻せないものもたくさんあるの
子どものころしたくてもできなかったこと
今になってやったとしても
もう埋められない穴

今年も誕生日がやってきて
自分で自分に言ってあげるの
よくここまで生きてきたね がんばったね って
だけどやっぱり
取り戻せないものはたくさんあるの
もう埋まらない穴もたくさんあるの

だから今年も言うわ
Happy birthday to me を
きっとひとりきりで 何度でも
一日中 繰り返し
言われてこなかった分を埋めるように
何度でも 繰り返し
この穴が 埋まるまで