柔らかな朝

目覚めの良い柔らかな朝なのは
久しぶりの感覚で心地よかった
からだのあちこちもふわふわと
ほぐれるままにまどろんでいた

動き出せば歯を食いしばってしまう
きりきり神経を尖らせる中にいても
目覚めからの少しの間だけは珍しく
ほんのりとあたたかい柔らかな朝で

不思議な夢を見た

以前共同生活をした友人と
コンビニか何かに入ろうと
駐車場を歩いているときで
たぶん車から降りたところ
彼が左隣から合流しながら
いきなり何の前触れもなく
結婚しよっかと言ったのだ

先にコンビニに入っていく彼の背中に
何か返事しなくてはと思ったそのとき
陳列台のクリアファイルが目に入った
私にとって特別な思い入れのある山の
写真と名前まで書いてあるファイルで
ああ私は彼とは結婚できないと思った
私には他に愛するひとがいるのだから

そんな不思議な夢を見たわりには
気持ちよく柔らかに目覚めた朝で
どうやら私は相当気が多いらしい
夢でプロポーズしてきた彼でなく
思い浮かべた愛するひとでもない
全く別のひとが隣にいて目覚める
あたたかい感覚の妄想の中にいた

夢の中では二人を天秤にかけて
目が覚めたとき妄想にいたのは
全く別のひとだったというのに
罪悪感も後ろめたさもなくただ
あたたかくて柔らかな朝だった

ほんとうに柔らかな朝だった