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星ふる夜に

「王子、ここにいたのですか。皆探していますよ」
 幼い彼は、僕の声を聞くと嬉しそうに星空を眺めたまま微笑んだ。
「やぁ、元気してるかい。僕は元気さ、なんたってこんなに星空が綺麗なんだから」
 王子は、山荘の屋根の上で星を見ながらそう言った。木造建築のなんてことはない家だ。
「王子、もう少し王の子としての自覚を持たれてください。あなたは、闇の魔法歴代一位の魔力の持ち主なのですから」
 王子は、聞いているのかいないのか、星空を見ている。僕と同じ五歳で僕は彼の従者の一人だ。


「そんなこといったら、君だって光の魔法の歴代一じゃないか。まぁ、そんなくだらないことはいいから、隣で寝転がってみなよ。星がとてもきれいだよ」


 しばらく、屋根の上で仁王立ちをして王子が動くのを待ったが、王子は星を見るばかりだ。根負けして彼の隣に寝転がり星を眺める。


「どうだい、綺麗だろ。星ってさ、あれって、太陽の光で照らされて、輝いているんだよ。それを考えたら、僕はさ、光の魔法の持ち主だって僕らと同じくらいに大切にされたっていいと思うんだ。皆、自分を卑下しすぎだよ」


 王子は、時折このようなことをよくおっしゃる。彼は自分の価値をよく分かられておられない。
「王子、何をおっしゃいます。私たち光の民はあなたたち闇の一族がいなければ、何もできないのです。あなたの好きな星空だって、闇がなければ、ただの蒼い空が広がるだけでしょう。貴方たちが、闇で私たちを浮き上がらせてくれるから光輝けるのです」


 王子は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、お互いにいないと楽しくないってことだよね。ほら、僕たちは平等でお互いに大切な仲間でしかないんだ」
「王子、それは違います。王子たち闇の一族には、私たちにはできない仕事があります。王子たちには、我々の心を闇で覆うという大切な仕事が……。そうやって、成人の儀に闇を注いでくれることによって、我々はその闇に覆われた心の中でも一際輝く一番星を見つけます。そうやって見つけたその一等星こそが私たち光の民が本当に望んでいるやりたいことです。貴方たちが闇を注いでくれるからこそ、私たちは本当にしたいことを道に迷わず生涯を通して為すことができるのです」


 王子は、なおも笑みを浮かべている。
「それをいったら、僕たちだって同じさ。君たちが光を注いでくれないと、僕たちだって自分の光を見つけられないさ。古い文献を読むとさ、こう書いてあるよ。僕たちの王族って市民によって選ばれたってさ。それだって、たまたま闇の一族が光の民よりも少ないからそう選ばれたってだけさ、逆だったらきっと君たちが王族だったに違いないよ」


 そう言って、彼は強い魔力を発生させる。びりびりと大気が揺れる。それから彼は指を振った。星空は闇に呑まれ何もない真っ暗な空になった。
「これが、美しいかい? 僕はそう思わないよ。ねぇ、君も光の魔法を使ってよ」
 僕は、王子に頼まれ光の魔法を力強く放つ。空に星空が一斉に広がる。
「ほら、見てよ。さっきより綺麗だろ」
 確かにそうだった。闇がくっきりと出て、その中に光が輝くことでさっきの星空よりはるかに綺麗だった。


「王子、あなたは何がおっしゃりたいのです」
「特別なことじゃないさ。ただ、皆が本当の意味で平等になれる日が来るといいなってことさ。だって、この景色は僕一人じゃ絶対に見れないからね」
 彼はそういって笑うと、また星空を見続けている。


「そんなあなただからこそ、私はあなたに我々を導いてほしいのです」
 そう小声で言ったが彼には聞こえていないようだった。
 僕も彼と一緒に星を眺めた。とても綺麗だったが、僕と彼とではきっと見えている景色が違うのだろうなと少し残念に思った。
「あっ、流れ星だ」
 流れゆく星に、僕は彼が王になってくれるのを願った。

いつも読んでくださってありがとうにゃ。 ゆうきみたいに本を読みたいけど、実際は読めていない人の為に記事を書いているにゃ。今後も皆が楽しめるようにシナリオ形式で書いていきたいにゃ。 みにゃさんが支援してくれたら、最新の書籍に関してもシナリオにできるにゃ。是非頼むにゃ。