見出し画像

秋のお能(2):秋の哀愁を感じられる演目

前回は、情景として目に映る秋を感じられる演目をご紹介しました。

秋のお能(1):秋の情景を感じる演目

今回は、秋特有のもの悲しさと物語の哀愁を感じられる演目をご紹介します。

『松風』


旅の僧が須磨の浦(現在の神戸市)に訪れると、一本の松を見つけます。
そこは松風・村雨という海女の姉妹にゆかりある場所だと知ります。
日が暮れると汐汲車を引く二人の海女が僧の前に現れます。
僧がその松について話すと、二人は涙を流し「自分たちが松風と村雨の亡霊」だと語ります。
昔、在原行平がこの地へ滞在した時に寵愛を受けたのが、松風と村雨でした。
行平が京都に戻った後、すぐに亡くなったことを知り、二人も後を追うように亡くなったと語ります。
松風は行平の形見の衣をまとい、心を高ぶらせて舞います。そしてその松を行平と思い込みすがりつきます。
夜が明ける頃、二人の姿は消えていきました。

「熊野、松風に米の飯(熊野と松風は米の飯と同じで飽きることはない)」と言われるほど、春の名曲「熊野」と対比される秋の名曲と言われています。

月明かりの下で汐を汲む前半、狂おしく行平への想いを募らせて舞う後半とともに、見どころの多い演目です。

【今後の公演情報】

11.21 第8回洩花之能 十四世喜多六平太記念能楽堂 https://tomoeda-kai.com/schedule-noh/4057/

『砧』

画像1

「砧」狩野了一師 (撮影:石田裕) 


訴訟のために上京した夫の帰りを、妻は待ちわびていました。三年が経ち、そろそろ帰るという便りとともに侍女の夕霧のみが帰郷します。
妻は「この音が都の夫に届け」という思いで砧(布地を打ちやわらげ、艶を出すのに用いる木槌)を打ちます。
都からの知らせで、夫が今年も帰ってこないことが分かると、妻は絶望し病になり、ついには亡くなってしまいます。
妻の訃報を知った夫は急ぎ戻って来ます。妻を弔っていると、夫のもとに妻の亡霊が現れます。
妻の霊は、執心を持って亡くなったため地獄に落ち、その苦しさや夫への恨みを述べます。
しかし夫の弔いのおかげで、妻は成仏を遂げるのでした。

「砧」は『申楽談儀』で「末の世に知人有りまじ」と語られた世阿弥の自信作と言われています。砧を打つ「砧之段」は、秋のもの悲しさ・侘しさをより引き立てます。

【今後の公演情報】

11.23 桂諷會 国立能楽堂 https://www.keizou.net/livepage/
11.27 名古屋特別公演 名古屋能楽堂 http://www.hisadakan-oh.com/reservation.html


『野宮』

旅の僧が野宮の鳥居を訪れ拝んでいると、里の女が現れます。
折しも今日(旧暦で九月七日・現在は10月頃)は、光源氏が野宮へ御息所を訪ねた日でした。
女は当時の御息所と光源氏のことを僧に語ります。そして自分がその御息所だと明かし、消えていきます。
夜になり、僧が弔っていると牛車にのった御息所が現れます。
御息所は賀茂の祭りで、光源氏の正妻葵上の車と争った「車争い」の様子を語り、懐旧の舞を舞います。

あらすじ・見どころはこちら (多言語字幕サービス「能サポ」へ)


高貴な御息所の過去への妄執と迷いが、描き出される演目です。
野宮の鳥居を表す作り物も、印象に残ります。

【今後の公演情報】

12.5 第二回真花演能会 宝生能楽堂 https://shin-flower.jp/events/2021/0819112258.html 
12.5 第20回 柊会 喜多能楽堂 http://kita-noh.com/schedule/11329/

今回ご紹介した演目は、取り残されてしまった女性の悲しさや執心といった心情を、秋の物悲しさとともに描いています。
上演が終わってしまった公演もありますが、毎年秋にはこちらの演目がよく上演されますので、ぜひ来年にも足を運んでみてくださいね!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?