「新作能」:能にも新作があるんです!
能は650年以上続く伝統芸能なので上演される題材も古典が多いですが、実は時代に合わせて様々な新作の演目が作られています。
今回は「新作能」についてご紹介します。
●新作能と現行曲
現在演じられている能の演目は室町時代にほぼ書かれており、多少改変がある演目もありますが現在でも上演されています。
それらを「現行曲(げんこうきょく)」と呼び、明治維新以後に新しく作られた能を「新作能」と呼んでいます。
現行曲は観世流だと210曲ほどありますが、新作能は300曲ほどあります。
実は新作能の方がたくさん作られています!
新作能のうち、最も再演を重ねている演目が「鷹姫(たかひめ)」です。
これは、アイルランドの詩人、W・B・イェイツの舞踊詩劇「鷹の井戸」を、能楽研究者の横道萬里雄氏が「鷹の泉」として作ったものをさらに改変したものです。
地謡の役がギリシア劇のコロスのようであったり、能のスタイルにとらわれずに、能の良さを活かした作品。観世寿夫師の主演で1967年に初演されました。
(今年の11月5日に山井綱雄(やまい つなお)師の会で上演が予定されています。ぜひチェックしてみてください!)
また、歌人の土岐善麿(とき ぜんまろ)氏は「夢殿」「青衣女人(しょうえのにょにん)」「実朝」など16作品を書き、当時の宗家である喜多実(きた みのる)師の節付・型付で、喜多流によって繰り返し上演されています。
他にも与謝野晶子が登場する「晶子みだれ髪」(馬場あき子氏作)、『源氏物語』が題材となっている「夢浮橋(ゆめのうきはし)」(瀬戸内寂聴氏作)など、国立能楽堂が企画して作られた新作能もあります。
さらに、免疫学者であり文筆家の多田富雄(ただ とみお)氏が作った新作能もあります。
脳死と臓器移植をテーマにした「無明の井」、戦時中の朝鮮人の悲劇を扱った「望恨歌(マンハンガ)」、アインシュタインをテーマにした「一石仙人」、原爆と投下された広島を描いた「原爆忌」など、社会性が強い内容の作品です。
(ちなみに「一石仙人」はドイツ語で「アイン」は「一」、「シュタイン」は「石」であるためこのような題名になっているようです!)
(「鷹姫」)
「鷹姫」(2016年12月24日 於 なら100年会館)
老人・大槻文藏(おおつき ぶんぞう)師
鷹姫・大槻裕一(ゆういち)師
撮影 工房円
今回お写真をお借りしました大槻文藏師・裕一師は、今年5月9日に、新作能「聖徳太子」にも出演なさるそうです!
●新作能ピックアップ
ご覧いただきやすい新作能をご紹介します!
・沖宮(おきのみや)
作家・石牟礼道子氏の物語と、人間国宝の染織家・志村ふくみ氏が作る衣裳で話題になった「沖宮」。
亡き天草四郎の妹・あやが、干ばつで苦しむ村のために生贄として龍神に捧げられる。沖へ流されたあやは海に投げ出され、そこに兄である四郎が現れる、というあらすじです。
この能装束は、志村ふくみ氏が沖宮のために製作したもので、従来の能装束とは違った色合いを見ることができます。
2018年に金剛龍謹(こんごう たつのり)師により初演されましたが再演を望む声が多く、クラウドファンディングを経て2021年6月12日に再演(金剛龍謹師・宝生和英師)される予定です。
石牟礼道子さんは水俣病をテーマにした「不知火(しらぬい)」の新作能も書かれています。
石牟礼道子と志村ふくみの新作能「沖宮」ダイジェスト(Youtube:求龍堂田中GMAIL)
https://youtu.be/b_ytUJiEONc
映像を見た方はこちら!
DVDブック 新作能〈沖宮〉 魂の火―妣なる國へー
https://www.hinoki-shoten.co.jp/p/c/4990800012
(沖宮イメージブック・沖宮DVDブック)
・アマビエ
コロナ禍において最も有名になった妖怪ですね!疫病退散の願いを込めて、様々な場所で目にしました。
能は鎮魂や国家安寧、五穀豊穣を祈るために謡い舞う芸能です。
疫病退散祈願としてアマビエの新作を作るのは意外なことではありません。
こちらの能は大槻能楽堂のYoutubeチャンネルからご覧いただけます。
【シテ:武富康之(たけとみ やすゆき)師・作:上田敦史(うえだ あつし)師】
新作能「アマビエ」(Youtube:公益財団法人大槻能楽堂)
https://youtu.be/-okw1gDZVDA
・白雪姫
誰もが知っているグリム童話のひとつ「白雪姫」が新作能として上演されました。
狂言方・野村萬斎師が監修し、野村太一郎師が主演・演出をしましたが、シテ方の能楽師やお囃子(楽器隊)も参加し、能ならではの重厚感や狂言ならではのユーモアさが感じられる内容になりました。
新作能「白雪姫」スポット(Yotube:吉本興業チャンネル)
https://youtu.be/LZdfSpzG194
・シェイクスピア作品
シェイクスピア4大悲劇のうち「マクベス」と「オセロ」が新作能として上演されています。(ともに辰巳満次郎(たつみ まんじろう)師による)
海外の物語と日本の古典がどのように上演されるか気になるところですが、能の形式を失わず構成されておりうまく融合されています。
しっかりと作品の主題が取り入れられているため、シェイクスピアが好きな方も能が好きな方も楽しめると思います。
このように能楽はずっと同じ演目を上演しているのではなく、どの時代でも新しい試みに挑戦しています。
伝統を守りつつ時代に合わせて変革していくからこそ、能楽は650年以上も残り続けているのかもしれませんね。