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振り向いたら座敷わらし【第四話】

座敷わらしという存在自体が摩訶不思議なのに、その摩訶不思議な存在が我が家に居つく理由など尚のことわかるはずもない。そもそもそれを理解しようなどというのが畏れ多くおこがましいのだ。

…と思うことにした。

ミックスジュースを飲み終わった座敷わらしはまた私の顔をじっと見つめている。
またまたその目に吸い込まれそうになるのを堪えた。人間は成長するのである。
「そしたらカレーよそってくるね。」
「…かれー?」
「そう。今晩はカレーだよ。」
そういって私はカレーをよそってくると、テーブルにならべた。一応来客用に皿とスプーンを二人分用意していたのが役に立った。
座敷わらしはそれをまたジッと眺めている。
「いただきます。」
私がそういうと座敷わらしもそれに続いていただきます、言った。
座敷わらしはスプーンでカレーを恐る恐る口に運んだ。
その瞬間、座敷わらしの顔がパーッと晴れやかになるのが見て取れた。
「しゅうすけ!これ、おいしい!」
「おぉ、お気に召してくれたみたいでうれしいよ。」
座敷わらしは次々にカレーを口に運んでいる。相当気に入ったらしい。
何だかそれを見ているととても穏やかな気分になった。もしかしたら子供を見る時の親ってこんな気分なんだろうなぁとしみじみしてしまった。
あっという間に座敷わらしはカレーを食べ終え、私も食べおわった、ところで眠くなってきてしまった。

(風呂は明日にするか…。)

私の部屋はテーブルを部屋の中央に置いているのだがそのままでは布団が引けない。
なので私はテーブルを片づけ端によせ、布団を引かねばならないのである。
「ちょっとどいててね。」
座敷わらしはそう言われ、部屋の隅に立っていた。その間も私のことをジーっと眺めている。
何だかそこまで見られると落ち着かない…。
「あの…そんなに見られえると恥ずかしいんだけど。」
「だいじょうぶ、わたしは恥ずかしくない。」
そういうことじゃないんだけどまぁもうあきらめよう。
こちらも来客用に準備していた布団と自分の布団の二人分の布団をさっさと引いてしまった。
「さっ、寝ようか。」
そうすると座敷わらしは私の傍にある私の布団に入った。
「…君の布団はそっちだよ?」
「しゅうすけと一緒に寝る。」
「えっ。」
私は瞬間逡巡した。

いやいやちょっとまて、確かに相手は子供だ。躊躇う必要はないのではないか。だがしかし女の子の可能性も捨てきれない以上、果たしてそれは良いのだろうか。見ず知らずの女の子、といっても向こうは私のことを知っているようだが、その女の子と一緒の布団で寝てしまっていいのか。もしこれが仮に人様に知られたら少女趣味だとか言われて、後ろ指をさされたりとか…。

「しゅうすけ、わたし眠い。」
ハッとして、私は我に返った。
「…そうだね、寝ようか。」
ええいままよ!
私は思い切って座敷わらしと一緒の布団で寝ることにした。
私が布団に入ると座敷わらしはピトッと私にくっついてきた。なんだか子供だが人と同じ布団で寝るなんて久しぶりである。
座敷わらしを見てみると、もう既に寝息を立てていた。どうやらぐっすり寝ているようだった。こうしてみると本当にただの子供にしか見えない。

(はぁ…。)

何だか今日はとても疲れた。
仕事はいつも通り疲れるのだが、それに加え座敷わらしという子供がくっついてきて、久々の手料理をふるまったのだ。慣れないことをするとやはり疲れる。
明日が休日だったのが幸いだ。

(明日はお風呂に入れてあげないとなぁ…。)

そうして私の意識は遠のいていったのだった。

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