飛行機で

 もう冬至はとっくに過ぎたが、寒さが厳しい。そんな日に出張で北海道へ行った。羽田空港には、平日だからか人はまばらであったが、それでも人同士がぶつからないように、言葉を一言も交わさずお互いの進む方向を姿勢だけで主張していた。人がそれほど多くないのにも関わらず、自分の行く道を主張できないでいる僕は、時々人とぶつかりそうになり、申し訳なく顔を伏せるので、すぐ後ろにいる人にもぶつかりそうになる。ここにいるすべての人は、どこかへ行くからここにいるのだ。預け入れ荷物をチェックインカウンターで預けた僕は、空港の店をブラブラと回ったり、食事を楽しんだりすることができないので、片隅に申し訳無さそうにある本屋へ向かい、どこの誰かわからない作家のエッセイと、芸人が書いた小説を手にレジへ進む。購入した本を片手に、出発75分前の保安検査場をくぐり、出発ゲート前にある、閑散としたベンチで一人、本の著者がパソコンに向かって、一文字一文字紡いだ文字を目で追っていった。出発ゲート前は、忙しそうに無線で交信しながら歩き回る空港職員や暇そうに保安検査場を眺める警察官以外に僕一人である。まず、エッセイを手に取り読んだ。この著者が、作家になるまでに、作家になる前に体験したことを綴っている。僕は工学の学部出身であるから、家政科の話やアパレル業界の話を綴っているこの本は、とても新鮮で、別世界を見ているように感じた。この本のある章で女子が子供のことを指さない、じゃあ女子とはなにかということを著者なりに書いていたのだが、この「子」は人のことを表す接尾語であると知っていた僕は、なぜ「インターネット」と「スマートフォン」という便利なものが普及した今、何ならスマートフォンに語りかけるだけで何でも調べられるという今、自分で調べようとしないのかということが不思議である。
 出発時刻30分前から、搭乗を開始する。まずは、優先搭乗から。そんなアナウンスが流れ、あたりを見渡すと自分と同じ飛行機に乗るであろう、もしかすると隣に座るであろう他人が、バラバラに座っている。しばらくして、すべての人が搭乗可能であるとアナウンスが流れ、僕も促されたゲートへとあるき出す。平日のためか、空港のまばらな人と同じように、飛行機にも空席が多かった。
 飛行機が陸上選手がスタートダッシュを切ったように離陸した。しばらくして、客室乗務員が毛布を希望する乗客に配り始めた。僕は、決して寒くは無かったけど、自分の安心のために毛布をもらい、そっと肩からかけた。

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