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M(1)

Mは、半世紀を超えて地域に愛され続ける老舗喫茶店です。そのレトロな雰囲気に魅了される観光客も多く、私がこの町を再三訪れる理由でもあります。

その日、店に入って来た男は、初老よりは少しギラつきが残る年代の旅行者でした。特に断りもせずに三脚にカメラを据えて、店の中の撮影を始めました。

ピピ、パシャリ。仕事なのか、趣味なのか。撮影は、本格的で、そして執ようでした。半世紀の静寂にその機械音は、一向に馴染まず、ひどく耳障りでした。

何十回目のピピ、パシャリで、私は、確信しました。やり過ぎだ、と。「美しいものを撮ろうとする人であれば、まずは美しいものに敬意を払うべきだ」と。


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