退去費用、6万円取り返した話⑥最終ラウンド

長々とやり取りを続けても、結局主張(自説)を改めることのないブッダ。私としてはもうブッダの行動に期待はしないし、「この不誠実さは看過できない。金を取り返すなら訴訟まで進めるしかない」と思っていたので、訴訟終結までのおおまかなプランを作りました↓

①大家との協議(ブッダとの協議に代え、決裂。今ココ)

②内容証明を送り、精算内容の修正請求を行う

③大家側から協議開始の意思表示がないことを確認

④裁判所に提訴

⑤審理の実施

⑥勝訴して、返還を受ける

手順として書けばシンプルですが、この一連の流れが最も労力が必要になりました。それではブッダとの最終戦、はじまりはじまりです!

大家に内容証明を送付

まず、訴訟を起こす前の最後通牒として、「大家に」敷金を返還するよう求める内容証明を作りしました。期待はしませんが、万が一大家が協議に応じるようならそれでも良いし、応じなければ「ここまで要求をしたけれど、大家は応じなかった」という証拠として裁判所に提出するわけです。また、今まで表に出てこなかった大家に揺さぶりをかけ、入居者との問題を解決する役割を果たしてこなかったブッダの面子をつぶす効果もあります。

補足:内容証明って?

内容証明ですが、端的に言えば「金払え」みたいな、先方へ伝えたい内容を書面にして、先方へ1通送付し、郵便局に1通を保管してもらうというシステムです。誰にどんな連絡(意思表示)をしたかを証拠として残すという意味があります。

なので、内容証明を送り付けられたら「裁判も辞さない」という意思表示になりますので、普通はこんなことされたら大ごとです。

ちなみに書式や1ページ、1行当たりに使える文字数の上限など、結構細かく決まっています。裁判で証拠としても使えるので、フォーマットや記載内容は正確にする必要があります。また、結構費用が掛かるのであまり長い内容を送るのには適していません(一般の郵便料金に加えて1枚目440円、2枚目以降220円+一般書留で送付する料金)。

送ってみた結果

先の項目にも書いた通り、これは宣戦布告にも等しい行為なので、まともな管理会社であれば、訴訟にするか協議を行うか天秤にかけて態度を改めることもあったかもしれません。

が、もちろん悟り人ブッダはそんなことではブレませんでした。

内容証明を送付した直後、ブッダから届いたメールにはこんな文言が↓

こちらに断りもなく大家に内容証明を送るのは正規の手続きを踏んでいるとは思えない

残念ながら双方が妥協できる点を見いだせないまま現在に至ったので、契約書に従い精算を進める(メール内容ここまで)

自信があるんでしょうね。私ももう行動は決めているので淡々と進めるつもりでしたが、向こうもこれだけ自信があるからには、勝算を持って動いてるのかな?という気はしました。

そして1週間後、とうとう解約精算金が振り込まれました。もちろん内容はブッダの仰せのまま。これは開戦てことですよねお釈迦様!?

ということで自分の口座への入金を確認した後、訴訟準備に進みます!

今回もメールで連絡がきたのですが、これを見たときは怒りはなく、獲物が罠に「かかった!」という感覚で、テンション(アドレナリン?)がじわじわと上がってくるのを感じました。待っとけよブッダ、その螺髪むしり取ってやるからなぁ!(本人は直毛)

訴訟の準備と申し立て。むちゃくちゃ時間かかった・・・

さて内容証明とは別に、裁判所に提出する「訴状」というものが必要なんですが、これがまた、最初はめんどくさいです。知識ゼロだったので、まずはネットで調べまくり、裁判所に行って書類の書き方を教わり、何度か書類を作って裁判所に持ち込み、指摘された部分を直してまた持ち込みを繰り返しました。書類作成だけで、仕事でやったことがないくらいPDCAを回したと思います。

そしてこれ、めちゃめちゃ時間かかりました。調べてから訴状提出まで1か月以上かかってるはず。書類の作り方と、主張の法的根拠を調べる流れさえわかれば、数日あればできるんではないかと思いますが、何もかも初めてだととにかくちょっとした不備で戻されまくり。例えば証拠資料に番号を振っていないだけで戻されたり、番号も名前の付け方が決まっていたり(私の場合、「甲第〇号証」といった具合)します。

ちなみに、今回はせいぜい6万円ということで、少額訴訟という制度を使いました。弁護士なし、1日で決着がつく、再審なしという初心者向け!

もうひとつちなみに、裁判所(少額訴訟は簡易裁判所)の人はものすごく不親切でした。まず、少額訴訟の手続きや書類についても最初は「で、書類は?」から始まり、初めてなので書類の書き方からきいたところ、法律用語満載で話すので何もわからない。こっちもお経を聞いているようで、「ここにもブッダがいた?」と愕然。結局、何度も質問を返してやっと内容を理解できました。しかも、「ネットに上がってるからこれくらい自分でやって欲しい」とお小言。しかもネットに上がってる文書はPDFで、PC入力できないんだよなあ・・・。

挙句の果てに、やっと内容の不備を修正して書類を提出し、「審理はいつですか?」と聞くと、「コロナのせいで他の案件も遅れてるから、いつになるかわからない。10月くらいか?(このとき7月下旬)」とのお達し。

さすがにこの時は「ちくしょう、お役所仕事野郎め!!」と叫んだとか叫ばなかったとか(丁寧にお礼を言って立ち去りました)。

ちなみに訴えの内容は、何度も出していますが、改めて以下の金額を返せ、という主張にしました。

●クリーニング費用(44,000円)→ガイドライン、判例から見ても大家負担。契約書には入居者負担と書いてあるが、事前に金額を定めていない以上、有効な取り決めではない(何より今までの不誠実さに腹が立った。わざわざくれてやる必要はなし)

●クロス代金(7,920円)→減価償却した金額に修正すべし

●エアコンクリーニング(5,500円)→ガイドライン、判例から見ても大家負担。

●クロス洗浄(3,300円)→意味も根拠も不明。クロスの貼り替えとは別の洗浄ということであれば通常損耗と見ざるを得ないので、ガイドライン、判例から見ても大家負担。

●返ってきた敷金の遅延損害金→契約書には、退去後1か月で返還すべしとの定めがあるが、半年以上遅れたため。実は、上記の訴えを認めさせるために、「ここは譲ってもいい」と交換条件にするための釣り餌。

●クリーニング費用ほか、返還を求めている現状回復費用の遅延損害金→敷金の遅延損害金と同様、釣り餌

というわけで、取るべき部分、捨ててもいい前提の部分まで設計して裁判所に提出、後は当日を待つのみ!

と思ったんです。この時は。

ちょっと横道に。実はあの人から「待った」が・・・

そんなこんなで訴状を提出したまでは勢いに乗って一気に進めたんですが、実は訴状提出の段で暗雲が立ち込めることになりました。ブッダが何かしたかというとそういうわけではなく








嫁さんです。





引っ越してからこの時点で7か月、ちょくちょく状況は話していたんですが、この段階になって私がずーーーーーーーーーーっともめてるのに嫌気がさしたらしく、「もういい加減にして!」とまさかのストップが。

嫁さんからすると、「せっかく引っ越して新鮮な気持ちで暮らしたいのに、数万円のことでここまで長期間怒りに囚われてるの、バカみたい」ということでした。当初はお金の絡む話だからと私の好きにさせてたけれど、ここまで長期化するとは思っていなかったそうなんです(私もです)。

そして、少額訴訟は「弁護士なし、即日で終わる」と先ほど書きましたが、一つだけ例外があります。被告(今回は大家)が私の訴えに対して、「通常の審理を求める」と回答した場合は、弁護士ありの通常の裁判(とはいえ簡易裁判ですが)に移行してしまいます。これは原告が訴えに対して回答をする=答弁書を提出するまで(つまり審理が決まるまで)どうなるか分かりません。最悪、審理の当日に少額訴訟→通常の民事裁判にするというサプライズアタックも可能なわけです。

これは、弁護士の当てがない私たちにとっては大きなリスクです。弁護士を頼めば明らかに、返金額より弁護士費用の方が高くなってしまいますし、当日流れをひっくり返されたら、ド素人vs弁護士という、圧倒的に不利な展開になりかねません(相手にとっても割に合わないけど)。また、一日では終わらない可能性もあり、時間もどれだけかかるか分からなくなります。

また、大家がどんな相手なのか全くわからないので、相手が恐ろしく訴訟慣れしていてこちらが返り討ちに遭うということも、低いながらも可能性があると思っていました。根拠のない想像ほどこんな時は膨らむもので、「もし通常訴訟にされたら」という仮定とセットで、かなりストレスになっていました。

また、「これ以上、こんなことでストレスを家庭に持ち込まないでほしい」と言われ、ここで夫婦ゲンカに。コストのことは前々から夫婦でも話をしていて、マイナスになるようなことはしないと決めてはいたのですが、「今それ言う!?」という驚きでこちらも冷静ではいられなくなり、2時間以上、夜中に激論することに。

結局、さんざん話したうえで「当日、もしも通常の裁判に移行してしまったら席を立って帰る!」ということで話を収めました。

そして待つこと実に4か月後、やっと12月某日ということで日程が決まり、審理直前になって被告からの答弁書が家に届きました。答弁書には、この時点では審理の方法を変える旨の申し入れはなし。まさかの不安は胸に抱えつつも、当日を待つのでした。

※ちなみに後でよくよく調べたところ、退去のトラブル、かつ簡易裁判ということであれば十分に弁護士なしでも戦えるみたいです。知識不足ゆえの杞憂ということだったのかもしれません。

決戦当日!

いよいよ審理の当日です。服装は自由ですが、「これは勝負だし、裁判所に向けたプレゼンだから!」ということで、コロナ期間中でご無沙汰していたスーツをまとい(太ったからキツイ)、裁判所へ。

緊張を抑えつつ書類をチェックしていると、そこにブッダの影が。そして隣には、おずおずとした様子の、メガネをかけ、むくんだ顔のおっさんが。

あ、これ大家だ。めっちゃ頼りない!行けるんちゃうかこれ?







急に湧き上がってくる勇気と闘争心

ドーベルマンとケンカになるかもしれないとビビってた柴犬が、相手はチワワだと分かった時のような安心感!

おもむろに立ち上がり、大家(仮)の目の前へ行き挨拶する(現金な)私。

「初めまして、今回の訴訟の原告であるXXXです。被告(!)のYYYさんですね?今日はしっかり話し合いましょう。では、また後で(キリッッ)。」

そうなんです、相手が見えると人間こんなにも態度が豹変するんですよ!

ふと、「この態度って、返り討ちに遭うザコキャラのパターンじゃね?」と思いつつも、余裕しゃくしゃくの表情に戻り、書類チェックに戻ります。

そして10分ほどで、審理が開始されました。

少額訴訟の場合、担当の検事はほとんど前に出てきません。一同が顔を合わせた後で全体の流れを話したくらい。代わりに司法委員という仲介役の人が大部分の進行を受け持ちます。

まず双方の主張を確認し、少額訴訟のまま進めるということで良いかとの確認。ここで先方も「それで良いです」と答えたので、わずかに残っていた不安もここで完全に消えました。また、ルール上は大家が被告なのでブッダは発言できないのですが、大家が「私は何も聞いてないし、ブッダさんにすべて任せてるから分からない!!」と言い出し、ブッダはブッダで「私は大家さんからすべて任されてますから!」とのたまうので、特例としてブッダは傍聴人として審理に残り、許可があった時だけは発言で切るということになりました。私は「異議あり!原告は大家であり、ブッダは代理人にも弁護人にもなれません」とでも言っておけばよかったんですが、そんな機転を利かすわけでもなく、勝手がわからず放置。

双方の主張確認の後はそれぞれが別室に案内され、原告、被告が別々に司法委員と話すという流れに移ります。先に被告、次に私ということで、それぞれ3回ほどやり取りを経て結論が出されました。

私が聞いた限りでは、概要はこんな感じです。

①原告(私)の主張は概ね認められるだろう。被告(大家)にもそのことは話した。強く抵抗していたが、主張は通らないということを何度も司法委員から伝え、渋々、結果を受け止めることにしたとのこと(自分に主導権があるような言い草だったみたいでびっくり)

②原告は、最後まで、全額の支払いを求め争うことはできるが、時間いっぱいまで被告が抵抗するかも。それよりは、和解にして確実に、迅速に収拾をはかることをお勧めしたい。

③和解する前提なら、訴えのすべてを認めさせるのは難しい。クロスの貼り替えだけは負担してやってはどうか?→この時点で私も、「クリーニング費用含め大部分が戻ってくるならそれでもいいや」と思い、ここを落としどころに決めました。

ただし全額はあり得ないということで、半額強(4,000円)ということで妥結。

それから、せこいブッダ(大家はブッダの言いなりなので)なら、「振込手数料は原告負担」なんて言い出しかねないが、それは認めませんよとクギを刺しました。司法委員の方は「そんな非常識な発言は聞いたことがないし、払う方が負担すべきもの。心配する必要はない」と即刻否定していました。

④和解の場合、遅延損害金は請求できない→これも、もとからエサのつもりなのでさっさと捨てました。

そして結審。再度一同が集められ、「クロスの金額4000円以外は、被告が原告に返金」「遅延損害金は放棄」という判決が言い渡されました。

そんな中、響き渡るブッダの声。







「振込手数料は原告負担でお願いします」→ね?言ったでしょ?

やっぱりか、と思いブッダの顔を覗き込みましたが、私が口を開く前に司法委員が「被告が負担するように」と言い渡し、無事終了。審理そのものは、あっけないな、という印象でした。

なお、最後に少しだけ司法委員の方と話す時間があったので、こんな事例はよくあるのか、と聞いてみると、「非常に多いし、管理会社に非があることがほとんど。立場上、法廷の外で口を出すことはないが、何とかすべきだとは思う。ただし今回の管理会社ような不勉強な事例は少ない」とのことでした。

そして審理の2日後、無事に決まった額(約6万円)が振り込まれました。内容を確認した上で訴訟の関連書類を保管し、自分としてもやっとすべて終わったな、と一安心。嫁さんにも最終報告を上げ、晴れて今回の1件は幕を下ろしたのでした。


最後に

全体としても単体のエントリーとしても長くなってしまったのですが、最後まで読んでいただきありがとうございました。

こんなことに労力をかけることなく、言われるがままに払ってしまう人がほとんどだと思いますが、退去のたびに色々な形で金を取られ、泣き寝入りしている人が非常に多いだろうと思いますし、こういうことは、賃貸の利用者が声を上げ、管理会社が「なめてかかる」ことができなくなる程度には皆が知識を身につければ減るだろうと思いますので、下手くそながらも文章にまとめました。

今回は、自分が専門ではない分野でも、少し知っているだけで無用な損害を防げると実感しました。退去費用に関してガイドラインや判例を「知るだけで」お金を取り戻す行動につながったことが、個人的には大きいです。賢さ(知恵)以前の、知識があるだけでもこれだけ役に立つ、ということですね。

今回の情報が少しでも皆さんの参考になればうれしいです。


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