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短編

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初恋今も胸を奏でる

初恋今も胸を奏でる

 第二話 苛立つ乙女心
昭和20年4月~6月(当時東京は35区)
 大山水絵の家族は、東京都赤坂区の豊川稲荷の傍に住んでいたが、同年3月の東京大空襲で焼け出され親戚を頼り、家族5人で田舎に疎開をよぎなくされていた。
 都会育ちの水絵は田舎暮らしが馴染めないでいた。
弟ふたりは虫だ!釣りだ!と毎日が楽しくて仕方ないようだが、
一緒に遊ぶ年でもなく東京に帰りたいとそればかり思っていた。
 水絵は地元の

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初恋は今も胸を奏でる

初恋は今も胸を奏でる

◆第一話

 六月。
今月で91才になる水絵にも初恋はあった。
たった一日だけの。
いえ! たった数十分の……
その初恋の人は、生涯忘れられない人になってしまった。
 懐かしむ物は何も無い。
すべて灰と化したのだ。
 六月……遣る瀬ない月が今年もくる。
 あの日の事は鮮やかに蘇り、
水絵の心を温めてくれる。
 でも、それと同時にもどかしさと苛立ちと涙を連れてくる月。
 水絵たちの世代は、戦中戦後が

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