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海苔巻きチキン

 基本的に、あまり言葉を発さない私。別にコミュニケーションが不得意っていう訳ではないのです。
得意というわけでもないけれど、好んでおしゃべりをする方ではない。だからなのか、私の感情の浮き沈みはあまり人に伝わらないらしい。

 日頃私はニコニコをつねに心がけているのだけれど、あまりにニコつき過ぎていて不気味に思われることも多々あり。
 かといって、真剣に考え事をしていると『怒ってるの?』と気まずそうに聞かれる。そう思うのならば聞いて来なければ良いのに、と思う。

 周りの人が、私をどんな人間と思っているのか、これって人付き合いでは大切な事だとは思います。でも私は私。
 別に割り切れているから、悩んでいるわけじゃない。けれど自分がどういう人間なのか、伝えきれないことはちょっとだけ寂しかったりもする。

 はい、分かってます、わがままなんです。私はわがまま、お子様と言われればそれまで。
放っておいてといいながら、もっとかまってと言ってしまう。
 つまり、私は無害なNPCを表象させる人間でありながら、荒唐無稽で理解しがたいエゴイスト。なのかもしれない。


 もう秋だというのに、昼間の日差しはいまだに夏の余韻を感じさせる。部屋を吹き抜ける風はちょっとだけ秋の気配を運んでくる。
季節の変わり目の、そんな不釣り合いな感覚が私は結構好きだったりする。

 こういう日は気分が良い。さっき、お隣さんは仕事なのか早々と出かけて行った。きっと階下の住人も不在だろう。知らんけど。
つまりはこのアパートにおいて、私の半径20メートルくらいにおいて人間は存在していないってことになる。そう思うとなんだか楽しくなってくる。

 いつもはヘッドフォンで聞く音楽をスピーカーから流す。流れるリズムに体が勝手に動き出す。
 もうね、この部屋はダンスフロアーに早変わりですよ。徐々にテンションも上がってくる。

「フォウッ」
 
そう、奇声ですね。テンションが上がってしまい奇声を発するんです。その後しゃべれない英語を耳コピで雰囲気で歌いだす。
はい、楽しいですよ。私は独りのほうがテンションが上がるタイプです。もうノリノリです。
 客観視してしまうと、なんとも痛い人のように見えるかもしれませんけれどね。きっと誰しも一度はやったこと、あると思うんです。ありません?

 そんなノリノリの私が作る献立はもう決まっているんです。テンションの高い日はビールだって飲みたい。そしておいしいおつまみがほしい。
ってことは揚げ物です。海苔巻きチキン。


【海苔巻きチキン】
 チキンを揚げる前に海苔を巻き付ける。至極シンプルで、そんな手間かけてなにが変わるのかと疑問に思う人もいるかもしれない。
 ただ海苔を巻いただけ、なのになぜだかおつまみ感が倍増してしまう、不思議な料理。


きっと、海苔巻きチキンって作る人によってこだわりがあると思うんです。
カラアゲを作る要領でしっかりと肉に味をしみこませる人。
スパイスにこだわって大人な味付けにする人。同じ海苔を巻いたチキンでも、作る人によってその結果は千差万別。
私の場合は日清の唐揚げ粉!これしか勝たん!!

 私の海苔巻きチキンのもう一つのこだわり、それはもも肉ではなく胸肉を使う事。理由は安いから!って理由もあるけれど
もも肉のジューシーさよりも、ちょっとパサついたチープ(決して鳥様の胸肉をディスっているわけではありません)な味が好きなんです。


 そんな胸肉を筋肉の繊維に沿って部位ごとに切り分けます。もちろん鳥皮も分離させる。
そうしたら、さらにお肉を一口大のサイズに切り分ける。このときにできるだけスティック状にするとおつまみ感がグッと強まる。
切り分け終わったらジップロックに全部投入。そこへ市販の唐揚げ粉を入れて良く振って混ぜる、その後冷蔵庫で30分ほど寝かせる。
 
 フライパンに油を多めに敷く。ホントはたっぷり油を使いたいけれど、節約も兼ねて揚げ焼く程度の油を使用。
冷蔵庫で寝かせた鶏肉たちに一つ一つ海苔を巻いていく。海苔の幅は三~四㎝程度でしょうか。意外とこの作業が楽しい、まるで人形に洋服着せてる感覚、ついついニヤついてしまう。


 下ごしらえが終わったら、さっそく揚げ焼く、一つ一つ油に投入し片面ずつ揚げていく。
あまり念入りに揚げ過ぎるとすぐに海苔が焦げてしまうので注意が必要。
そういうリスク回避の意味も込めて、スティック状にして肉の芯まで熱が入りやすくする。


一つ揚げ上がる。それを味見する。
もう一つ揚げ上がる。それも味見する。エンドレス!
揚げ物の最大の敵は自分です。揚げたての誘惑に勝てない。けれど揚げたては最高においしい。だって、私、腹減ってるんだ!

 完成海苔巻きチキン。ただ肉を切って、唐揚げ粉まぶして、海苔を巻いただけ。それだけなのに異常においしい。
そとはカリっとしていて香ばしい。唐揚げ粉のちょっとしょっぱいけれどスパイスの程よく効いた味が後を引く。
胸肉はパサつくって言ったけど、肉の線維がしっかりわかって、私は今肉を食べているって充実感がすごい。
そして海苔、脇役みたいだけれど、肉の実感を際立たせるように程よく磯の風味がプラスされる。
 そしてビール。昔はこんな苦い飲み物のなにがおいしいのかさっぱりだったけれど、今はそのおいしさがわかる。
海苔巻きチキンを食べてからのビール。これしか勝たん!!


 海苔を巻いただけなのに、ただの唐揚げとはまったく別の料理になってしまう不思議。なんだか見た目もテンションあがります。
たったちょっとのひと手間や、ちょっとの変化がこうも私の気分を上向きにさせてくれる。これって結構すごい事じゃないだろうか。

 人付き合いもそういうものなんだろうか。こちらがすこしだけ、いつもと違う反応をしたら、私の気持ちとか思いとかって伝わるものなのかな。
むずかしい言葉とか、難しい表現とかではなくて、手間かもしれないけれど海苔を巻くみたいにシンプルで単純な変化が、思いがけず私ってものを分かりやすく表現してくれるのかもしれない。
 でも、より私らしさを伝えたいのなら、海苔巻きチキン作ってる私を見てもらえばすぐに分かるのか?ニヤつきながら海苔を巻く姿を?

それは見せらんないな!!
 
 そして私は立ったまま、揚げては食べ揚げては飲みを繰り返し、完食してしまいました。ごちそうさまでした!

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