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宿題【7.彼は誰時】

 まるで時が止まってしまったようだ。締め切ったカーテンの隙間からはうっすらと青い光が差し込んでいる。
 彼女はカーテンを開けて窓をひらいた。暦の上では秋と言われているが、日中はうだるような暑さが続いている。しかし、今の窓の外はどうだろう。涼やかな空気が世界を包んでいる。そしてひっそりと生き物の気配のしない街。
 

 彼女はそんな外の世界を眺めて心配になってきた。もしかして世界には誰もいなくなってしまったんじゃないだろうか。

自分が宿題に集中している間にこの世界は死んでしまったのではないか。彼女がそんな心配をするほどに街は静まり返っていた。

 彼女は考えた。いや、むしろ世界はすでに死んだ。だって昨日と今日は全く違う。
 昨日の世界では宿題は山積みに残っていた。しかし今日はもう違う。今日、宿題はすでに終わっている!

つまり、今日世界は新しく生まれ変わったのだ!

 彼女は嬉しくて仕方がなかった。まったく新しい世界が生まれた!新鮮な世界を自分で生み出したと言わんばかりに部屋の中で小躍りをした。

 彼女は限界だった。徹夜で思考はまとまらず、なぜかわからない異様な高揚感が彼女を包んでいた。つまり正気ではない。
 
 彼女は自分の一晩で積み上げた功績を一つにまとめると、机の上で軽快にトントンと整えた。
 
 「今日が私の新しい世界の始まりだ」
 
 誰かに聞かれていたら赤面では済まない台詞を吐き捨てると、彼女はベッドに倒れ込みそのまま眠ってしまった。
 
 彼女はやり遂げた。幾多の苦難を乗り越え、不可能と思われた宿題をすべてやり切ったのだ。
 しかしこの数時間後、彼女が適当に記入した宿題はすべて期限付きの再提出を命じられる。
 これ以降、彼女は夏休みを迎える度、宿題は始まりの数日で全力で終わらせるようになった。 

彼女が言うように、彼女にとっての新しい世界はこの日から始まったのかもしれない。なぜならこの一晩で彼女は学んだのだ。

決められたことはちゃんとやらなければならないことを。


おしまい。

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