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小説【ステーキ】

ホームズにワトソン。助さんと格さん。フィクション、ノンフィクションの区別なく、古今東西世界は広しといえども、アナタと私、私とアナタで一心同体。相棒という概念が存在する。

辛いとき、苦しいとき、どんな境地であっても相棒は苦楽をともにする。時に憎まれ口をたたき合い、皮肉めいた言葉を交わしながらも、お互いの固い信頼を前にして、立ちはだかる敵は無し。

そんな相棒。私にもいますよ。

私はとっつきにくい性格ゆえか、友達の数は少ない。基本愛想は良い方だと思うけれど、関係性が深まりそうになるとそそくさと逃げる。私はめんどくさいヤツなんです。

そんなめんどくさい私と、小学生の頃から友達やってる危篤な相棒が一人。気心も知れた仲。多くを語らずとも、なんとなく何を考えているのか分かってしまう。

一緒に遊んでいても、私はおしゃべりなほうではなくて、お互い口数は少ない。私は自分の気になったものがあるとあっちにふらふらこっちにフラフラしてしまい、自分でも思うけれど取り留めなく動き回っている。それを知ってる彼女は、そんな私をほぼ放置。怒るでもなくお互い好きな事してるんです。なんでこんなに馬が合ったのか。その理由はいまだによく分かりません。


語り合わなくてもなんとなくよく分かる。だからなのか、気づけばしばらく会っていない。

しばらく?

よくよく思い出せば、もう一年以上会ってない。

うん?

それってはたして相棒と呼べるのか?すでに他人の域にまでランク落ちしているのでは?

まぁ、特別に会いたいとも思わないし。会わなくてもなんとなくだけど、なにしてるのか想像がつく。そしてきっとだけど、久しぶりに会ってもお互いの関係性は変わってない気がする。


【ステーキ】
肉の暴力。もとい、肉の至ってシンプルな料理。シンプルと言いながら、その調理方法は結構難しい。適当に焼けばいいってもんじゃない。


相棒について思いを馳せながら、私はスーパーに買い出しだ。そこで見つけたのです。特売品のステーキ肉。半額の600円!

霜降り?冗談よしてください。ステーキって言ったら赤身ですよ。この特価のお肉は赤身ですよ。
まぁ霜降りはうまいですよ。和牛最高ですよ。
でも、私はステーキが食べたい。だから赤身で良いんです。

半ば強引に自分を納得させながら。ステーキ単品では面白みがない。なにかもう一品、相性のよい付け合わせがほしい。

ブロッコリー?    論外。
キャロットグラッセ? いまいち。
フライドポテト?   悪くない。
マッシュポテト!?  もう一押し。

……あぁ。あれだ。


さっそく下準備に取り掛かる。購入した特売サーロインステーキ。赤身と脂身が明瞭に分かれた絵にかいたようなステーキ肉。そしてなにより薄い薄い。
そんな薄いお肉を常温に戻します。常温に戻ったお肉の筋を切る。よくわからないけれど、肉と脂身の境目を細かく切る感じ。そしたら、全体をぶっ叩いてお肉の線維を切れば、安いお肉も柔らかくなるけれど。私は叩かずそのまま放置。

ニンニクを多めに薄切りにする(2片から3片くらい。ニンニクの芽は取り除く)。フライパンに特売肉と一緒にもらってきた牛脂を投入して火にかける。薄切りニンニクも入れて油に香りをつける。

フライパンから揚がったニンニクを取り出して、火力を強火にする。ここから勝負です。

なにせ特売肉は薄い薄い。薄いステーキ肉を焼くほど繊細な見極めが必要な作業って世の中にほかにないんじゃないかと思うほど難しい。

覚悟が決まったら、肉に塩コショウをして、脂身部分には強めに塩をふる。
十分に熱されたフライパンに肉を静かに入れる。
肉の焼ける音と良い香りが立ち上る。
しかし!うっとりとしている暇はないんです。片面強火で2~3分!お肉を横から見て厚みの1/3程度まで熱が入ったと思ったら、ひっくり返す。

まだまだ油断はできない!もう片面は約1分!
時間が経過するまでに、アルミホイルを広げておく。
両面に焼き色が付いたら素早くアルミホイルで肉を包む。さらに準備しておいたタオルで包む。熱が逃げないように保温が出来たらやっと落ち着くことが出来る。

お肉を大切に保管しているあいだに。もう一品。ステーキといったら、ガーリックライスですね。しかし私はこの組み合わせは初めてで初体験。

フライパンに残った油をある程度ふき取る。少量だけは残しておく。そこにバターを追加。お好みで。
そこに固めに炊いたご飯、もしくは残ってしまった冷やご飯を入れて軽く炒める。
軽めに塩コショウをして、初めに取り上げておいたニンニクを半分程度入れる。
全体が混ざったら、フライパンの縁からしょうゆを少量回しかけてザックリ混ぜる。
しょうゆがかかっているところとかかっていない所がまばらくらい適当で。


保温しておいたステーキを開封し、一口サイズに切り分ける。
お皿にガーリックライスをよそい、その上にステーキを乗せ、アルミホイルの中の肉汁を回しかける。

完成、ステーキとガーリックライス!


間違いがないんだな!
ステーキとガーリックライス。分かっちゃいたけど、この相性は素晴らしい。タンパク質と脂質と炭水化物が合わないわけが無いか!

やっぱり薄切りの特売肉は焼くのが難しく。短時間で仕上げてもちょっと中まで熱が入り過ぎた様子。
ちょっと固めだけど、意外とその歯ごたえがお肉を食べてる実感が出る。
なんだかアメリカンな気分。
さらにガーリックライス。バターとニンニクと塩コショウだけなのに、なんでこんなに美味しいんだろ。不思議なほどごはんがすすむ。

全体がニンニクの風味で統一されているからか、二つで一つの料理であるような気がする。
ステーキとガーリックライス。分かっちゃいたけど。この相性は素晴らしい。必然のもと出来上がった料理なのかもしれない。


相棒といっしょか。
出会った理由や、一緒に居る理由はわからない。きっと出会うべくして出会っているのかも。

ずいぶんと会っていないけれど、何してるかわかる気がする。あえて会わなくても、寂しくはない。だって会えばきっといつも通りだと思うから。
このステーキとガーリックライスのような、ニンニクが取り持つ不思議な統一感が私と彼女の間にはあるのかもしれない。


ニンニクが取り持つ臭い仲なんてのはまっぴらゴメンだけれど。
たまには相棒に連絡でもしてみよう。

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