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125 / コーヒーとサッカーボール

目が覚めて、布団の中で体を伸ばしたり、少し筋トレをした。水を多めに飲んだ。手と顔を洗った。歯を磨いた。布団を畳んで、着替えて、外に出た。

近くの公園まで歩いた。猫と、子供と、大人がいた。ベンチに座って、英語の本を音読した。さっきまで子供が使っていたサッカーボールが放置されていたので、リフティングをした。

たしか子供の頃はもっとできていたのに、全然できなくなっていた。悔しさと楽しさで、何回かチャンレンジすると、45回できた。途中で暑くなって、ダウンを脱いで半袖になった。

球遊びに夢中になるのいいな。そうだこのサッカーボールを自分のものにしようと思って、倉庫の屋根に隠して帰ろうとした。明日の朝またリフティングをしに来るつもりだった。すると子供達が公園に帰ってきた。

ぼくは、屋根に隠したサッカーボールを何事もなかったようにそっと転がした。「あ!あった!」と子供たちは言った。

帰ろうとすると、猫がハトを捕まえて、口にくわえたままものすごいスピードで走っていった。TikTokで見たことあったけど、ほんとうに猫はハトを食べるんだな、公園は人にとっては平和でも、動物にとっては戦場なんだなと思った。

家に帰るとまだ14時半だった。まだ日光に当たらないといけないなと思ったので、昨日の散歩中に気になったコーヒー屋さんまで歩いて行った。海外の方がたくさん来ていて、日本人男性が英語で接客をしていた。

今日は女性店員もいた。スペシャルティコーヒーはありますか。あ、こちらのコーヒーは全てスペシャルティコーヒーでございます。あ、そうなんですね。

店員さんは細かくコーヒーの味わいについて教えてくれた。苦いコーヒーが飲みたい気分だった。お勧めされたコーヒーは2千円だった。お金が足りないのでまた飲みに来ますと言って、1,500円のコーヒーを頼んだ。

コーヒーは温度が下がると酸味が出て、味わいが変わるのだと店員さんは教えてくれた。コーヒーの温度を測れる機械もセッティングしてくれた。

少し肌寒い中、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。最初は58度。二口目は54度。コーヒーはどんどん冷めていった。わあすごい、ほんとうに温度で味が変わるんだ、面白いなと思った。

ごちそうさまでした。今日飲んだコーヒーの名前を教えてくださいと店員さんに言った。ぜひこのメニューの写真を撮って下さいと言ってくれた。スマホは触りたくなかったので、『ガテマラ・ゲイシャ・スイセンシキ』とメモをした。

また来ますと言うと、女性店員さんは笑顔で送り出してくれた。心が動いたのを感じた。
笑顔。
女性店員さんの笑顔は、少しの時間、コーヒーの味わいと一緒に頭に残った。

ああ、接客の、この温かい笑顔がぼくは好きなんだなと思って、なぜか涙が出そうになったので、グッとこらえた。東京にいた頃の美容師さんや、スタバの店員さんの顔を思い出した。

歩きながら、コーヒーを趣味にしてみようかしらと思った。いつの日か自分でカフェを出して、笑顔で接客をするのもいいなと思ったけれど、大変なことも多いんだろうな。

そういえば福岡の居酒屋で出会った夫婦がコーヒー屋さんをやっていることと、笑顔が素敵だったことを思い出した。あの2人は接客に向いてるよなぁと思った。それと高校の後輩がお兄ちゃんのコーヒー屋さんを手伝っているのも思いだした。

あの夫婦と後輩に会って、コーヒーを飲みながらいろいろ話したいなぁ。でも今はお金がないから会いにいけないな、仕事がんばらないとな、と思って、少しやる気が出た。


歩いて公園に戻った。さっきの子供達はいなくなって、サッカーボールが転がっていた。

ぼくはサッカーボールを、倉庫の屋根の上に隠して、お家に帰った。












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