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愛する理由なんてわからない

人々が思いの方向に歩き真っ直ぐに進むことができない。人の波に流されながら歩く。どうしてこんなに若者の心を掴む街なのだろうか。私にはこの街の魅力がわからない。けれどなぜかこの街に吸い込まれる。金曜日の夜だからだろうか、若者だけでなくそれなりの年齢の人も集まっている。この街はきっと何か解放できる街なのかもしれない。

スクランブル交差点近くの喫煙所で待ち合わせをする。最近ではタバコが吸える場所が少なくなったからか人口密度が高い。足下を見ると吸殻がたくさん落ちており、よくこんなに汚い場所でタバコを吸うことができると感心する。

「吸い終わるまで待ってて」

男はそういって吸いかけのタバコを再度くわえる。私は手持ち無沙汰で人と煙と吸殻の中で待っている。なんとなく世界から取り残された気分になる。

当たり前のように坂を登り暗く寂れた建物に向かう。そこには何の言葉も無く、ただ汗ばんだカラダを押し付けあう。虚しいけれどまるで私達の関係を物語っている。

男はタバコに火をつけ、思いついたように話し始めた。

「お前があいつと別れるんだったら、俺も他の女とは全て別れるよ。」

その言葉は何度も聞いた。それでもこの男に惹かれるのは何故なのか。何度と無く自身に問う。

この男は女にだらしない。さほどイケメンじゃないのに何故女が寄ってくるのかわからない。口は悪いし、とにかく自分勝手だ。嫌いなところはいくらでも挙げることができる。それなのに私はこの男から離れることができない。きっと愛することってそんなものなんだろうと思う。

けれど、この男と一緒にいたら私は一生満たされない。きっと私だけを愛することはないだろう。

だから私を愛してくれる別の男で寂しさを埋めてしまう。そしてこの男は「別の男がいる私」だから私のことを愛しているなんていうのだろう。そして私も他の女がいるあの男に惹かれているのかもしれない。

同じ穴のムジナ。
やはり、私にはこの男が合っているんだろうと思う。

私も最低の女だ。