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#エモいってなんですか?〜心揺さぶられるnoteマガジン〜

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理屈ではなく何か感情がゆさぶられるそんなnoteたちを集めています。なんとなく涙を流したい夜、甘い時間を過ごしたい時そんなときに読んでいただきたいマガジンです。
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#ショートストーリー

つかまらないタクシー、六本木。13Fからの安っぽい夜景の秋

気づくと君が座ってたソファのはじっこを見てしまう、少し肌寒くなってきた朝。ベッドでふわふわの白い毛布にくるまったままの私は密やかにミントの息をしている。息していいの?頭の中の自分にときどきそんなことを聞いてみたりする。 返事こないって分かってるのにまたLINEしてしまった。誰にも読まれないメッセージが宙に消えていく。赤や黄色になった葉が地面の方へふわりふわりと舞うように、一個ずつバラバラに空中分解していく文字。 毎年秋はこうやって始まる。 スタバのチョコレートマロンフラペチ

【小説】桜木町で、君の姿を

私の名前は「あみん」 変わってる名前だ。 親が昔はやった歌手から名づけたのだ。 一番ヒットしたのは『待つわ』という曲。 サビの歌詞はこう。 両親的には 忍耐力のある子に育つようにとの思いをこめたらしい。 そのせいもあってか 私は待つのが得意だ。 今日も私は待っている。 何を? 私の“運命”の人を。 私の運命の人は この桜木町のどこかにいるかもしれないのだ。 範囲広すぎ? そうかもしれない。 それでも私は待ち続ける。 奇跡が起こるのを。 * あれは今から三年前

2011年3月24日に死んだ男の話

その人は 静かで穏やかな人だった その人は 黒縁の眼鏡をかけていた その人は まあそこそこ整った顔をしていた その人は 聡明で物知りだった その人は 日本や海外の文庫本を沢山持っていた その人は いろんなジャンルのレコードやCDも沢山持っていた その人は 一本のアコスティックギターを持っていた でも弾けなかったらしい その人は 自分の姉の娘を可愛がりいつも優しかった その人は 車を走らせ一度だけその娘を海まで連れて行ってくれた その人は 当時小学生だった娘のどうでもいい話をニ

何より憂鬱なのは、秋が終わってしまうこと

打ち合わせ先からオフィスに戻る途中、突然雨に降られた。雨降るなんて聞いてない。打ち合わせ中に窓の外が暗くてああもう日が暮れたんだな、日が短くなったな、なんてのんきに考えてた。なんで雨雲だって気づかなかったんだろう。外にいたら絶対に匂いで分かるのに、とちょっと自分の衰えた野生の勘を恨めしく思った。もちろん折り畳み傘なんて持ってない。最悪だ。あの日と同じように突然雨に降られて私の前髪は早くも台無しになった。でも今日はもう帰るだけだから別にいいんだ。全然可愛くない私で君に会うよりず

君のことなんか、大好きでしかない

「で、これからどうするの?」 君が静かに、探るように放った一言に私は何も言えなかった。私はどうしたいんだろう。私は君とどうなりたいんだろう。目の前にはただ君が好きっていう刹那的な感情と君に抱かれたいっていう欲望が綺麗に二つきっとほとんど同じ大きさあるいは質量で並べられている。でもそれは目の前にしかなくて、数メートル先には何もなかった。暗闇、違う、そんなネガティブすぎる表現じゃなく、空虚あるいは煙に近い。見えそうで見えないもの、形のないもの、実態を掴めないもの。君のことなんか

孤独の種類

「僕と君は、似ているんだよ…」 男はそう言って、ハンドルを優雅に捌きながら遠くを見つめていた。 「そう、かもね。」私は返事をしながら『ウソ、全然違うし。似てなんかないわ。』そう思っていた。 共感を得るために、誰でも思い付くような、女の喜びそうなことを口にして悦に入っている男の横顔を、分からないように盗み見る。 私という存在は、この人にとってどういうものなのだろう。 気まぐれに時々会い、キスをし、時間があればホテルへ流れる。お互いを貪るように食べつくし、お腹がいっはい