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#エモいってなんですか?〜心揺さぶられるnoteマガジン〜

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理屈ではなく何か感情がゆさぶられるそんなnoteたちを集めています。なんとなく涙を流したい夜、甘い時間を過ごしたい時そんなときに読んでいただきたいマガジンです。
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#詩

砂塵に秋霖

Shower in on the light dust The cherry tree of the garden Will be going to deeper and darker And you,you,had better smoke a cigarettes Ere you departure For you will have no one about you When you come to the gate of heaven 砂塵に秋霖 校庭

2011年3月24日に死んだ男の話

その人は 静かで穏やかな人だった その人は 黒縁の眼鏡をかけていた その人は まあそこそこ整った顔をしていた その人は 聡明で物知りだった その人は 日本や海外の文庫本を沢山持っていた その人は いろんなジャンルのレコードやCDも沢山持っていた その人は 一本のアコスティックギターを持っていた でも弾けなかったらしい その人は 自分の姉の娘を可愛がりいつも優しかった その人は 車を走らせ一度だけその娘を海まで連れて行ってくれた その人は 当時小学生だった娘のどうでもいい話をニ

思い出は夜に溶けて

覚えていることはたくさんある。 地元の坂道に沿う桜並木 駆け上がって息を切らして笑いあう僕ら 寒すぎるくらい効いたクーラーの匂い 夜のコンビニの誘蛾灯が弾ける音 ざらざらと揺れる夏の青 橙に染まる二両編成の電車 並び合う僕ら 忘れてしまったことはたくさんある。 笑い声 薄れていく面影 朝日に光る涙の理由 囁き声 届いたはずの言葉 明けない夜はないと誰かが言った。 その通りなのかもしれない。 夜が明けた時にどうなってるのか。 それは誰も言わない。 ただ夜は明けると言う。 た

【掌編小説】Fコード

僕はもう二十九歳で大人になってしまったけれど、いまでもときどき学生時代のことを思い出す。 十八歳。すべてのものごとが非生産的な方向に向かっていた時代。 僕は大学に通いながら週に二回、予備校でアルバイトをしていた。 そこでの仕事は、一言で言ってしまえば雑用のようなものだった。授業前の黒板の清掃、塾内便の記録用紙のファイリング、模試の申込受付、その他職員がやるに及ばない細かな仕事は何でもした。 慣れないスーツを着て、先輩から窓口業務の仕方や大教室でのチュートリアルの仕方を教わ

火星のカップル

地球はふたりが住むには、悲しいことに満ちすぎていたから、わたしたちは火星に住むことにした。 気候はそんなにいいものではなくて、いつでも風が強く、風見鶏がくるくると忙しなく回っている。どこを見ても殺風景だし、面白いものは何もない。それでも、ゆるやかな曲線を描いた地平線や、幾万もの鮮やかな星々には、いつも息を飲んでしまう。胸を痛めるような悲惨なニュースも、他人からの思いがけない悪意もここには存在しない。ふたりだけで、ゆっくりと愛を育むことができる。 火星に来てから自分