見出し画像

感想「賭博堕天録カイジ 24億脱出編 9巻」

今月6日、カイジの最新刊が発売されました。

何気に2か月連続刊行とは、ありがたいですね。

早速語っていきたいと思います。

・漫画紹介

紹介記事をリンクします。

・前巻の感想

感想記事をリンクします。

以下、最新刊のネタバレ注意!

・銀行

不幸中の幸い、自分達が帝愛の債務者から追われる身である事に気が付いたカイジですが……債務者から怪しまれないように振舞おうとするあまり、かえって怪しい動きをしてしまうパニックに。

カイジってそういうところがあるんですよね。ギャンブルでも理詰めで戦う事が多いためか、パニックになりやすいんです。逆境には強いのですが、あくまでそれは覚悟を決めた土壇場での話。今回みたいな生命や、直接的に大金が懸かっているわけではない場面では、人波にテンパるのが面白いです。

村岡社長との勝負の時もそうでしたよね。あの時はまだ余裕があったから舞い上がって牌を落として大騒ぎしていましたが……

やっぱりカイジは昼行燈ですね。夜にこそ、逆境にこそ輝くヒーローです。

それはそれとして。

カイジの身元は結局、受付嬢がカイジの名前を呼んだ事でバレてしまいました。

受付嬢……何もフルネームで呼ぶ事は無いでしょうに。

「伊藤」だけならバレなかったんじゃないですかね。ありふれた苗字ですし。わざわざ下の名前まで合わせて呼ぶからバレちゃったんでしょうね。

でもって債務者の中阪、カイジの身元が分かった途端心の中でもうカイジ呼びしてるの、地味に笑えます。

作劇上の都合からか、何故かほとんどの登場人物はカイジの事を苗字で呼ばず、下の名前で呼びます。作品タイトルが「カイジ」ですしね。

不愛想なコンビニバイトやってた時も後輩から「カイジさん」と下の名前で呼ばれ、地下に落ちて給料をもらう時に至ってはカイジ呼びなだけでなく給料袋にまで苗字を略して「カイジ」と書かれる始末。チャンとマリオとの出会いの際にはもはや開き直ったのか、苗字を語らず「カイジ」と名乗る徹底っぷり。この二人はカイジの苗字、知らないまであると思います。

謎の取っつきやすさがあるんですかね。孤高の天才であるアカギとは対極な感じですね。

・遠藤の捜索

カイジが目撃された事で、遠藤も動きます。ケンタッキー食ってる場合じゃなくなったわけです。

実家では、結局一度も顔を合わせていないにも拘わらずカイジを追い詰めていた遠藤。その執念深さのあまり、カイジから「死神」と揶揄されたほどの強敵でしたが……ここでついに二人の影がすれ違います。

たくさんの部下がいるとはいえ、元々全国を舞台にしたかくれんぼをしているようなもの、あまりにもカイジに分がある逃亡劇なのです。

そしてここで、序盤に仕掛けたレンタカーの罠が生きるというのは熱いですね。レンタカーの件がとんとん拍子に遠藤に伝わったのは、むしろ不運だったと言えましょう。

レンタカーの件が明るみに出た事により、遠藤の中で「カイジ徒歩移動説」が出て、茨城ロック発動。でもそもそもその説が外れているから、カイジが捕まるわけもなく……

こうなると、遠藤側のダメージも大きそうですね。結局実家ではカイジの存在が確認できていないわけですし、遠藤からすれば一度ならず二度までも……という心境でしょう。そして度重なる失敗は精神的な負荷になるでしょう。今回は部下も非は無いでしょうし、辛いところです。

逃亡者のカイジがチャン・マリオと悠々自適に飲食を楽しんでいるのがまた、双方の置かれている立場の明暗を表していて、良い対比です。

でもさすがに遠藤が追い詰められ過ぎているからでしょうか。ナレーションが遠藤に肩入れしているのが滅茶苦茶面白いです。

ナレーションというのは神の視点での語りという事になるのですが、その神に人格を宿すのは卑怯でしょう。これじゃ銀魂よろしくギャグ漫画ですね。

・新しいビラ

唐突な「野生動物扱い!」に笑いました。

しかしこの漫画、債務者厳しいですね。債務者はとりあえず底辺、クズ、使えない、役立たずみたいな風潮……それぞれのキャラクター造形が妙に説得力があるのも相まって、非常に根強いです。結局そうなると、クズじゃない人間数えた方が早い漫画になってしまいますけどね。

で、暴力金融屋の遠藤もやっぱり別ベクトルのクズという描写なわけなのですが……そんな強面でもノイローゼ寸前まで追い詰められていく様は、ちょっと可哀想ですね。

でもここまでの遠藤は、坂崎にした仕打ちなんかも含めて「嫌な奴」ですし、溜飲が下がるという認識もあります。

総合的に見ると……もっともっと追い詰められて欲しいですね。

・カイジの策

銀行の二階には債務者がいない。

なるほど。

確かに理に適った作戦なのですが……

カイジはよくそんな事知ってましたね。

大きな銀行の一階と二階の区分なんて、普通知らないでしょう。ましてカイジは一昔前まで債務者側の人間だったわけですし、そこに大きな意識の違いは無いように思えるのですが……

エスポワールを経験後、カイジは社会的見地を積んだのでしょうか。この漫画、章ごとの時間経過が短いタイプの物語なので、尚更空白の時間が気になるところですね。

・悩む遠藤

電話線を抜き、思案に集中する遠藤。

曲りなりにも一時は仲間として行動を共にした相手であるだけに、遠藤はカイジの性格をよく把握しています。「意外と人たらし」というのは妥当な評価でしょう。事実とは違いますが、概ね正しい予想です。

あとはキャンピングカーという存在に、果たして遠藤が行きつくか否かというところですが……

・黒崎

利根川失脚後、利根川がいたポストに入った帝愛最高幹部の黒崎。ジェネラルマネージャーとかいうカッコイイ肩書を引っ提げて登場しました。

黒崎が以前に登場したのは、「賭博破戒録」の頃まで遡ります。あの頃の黒崎は幹部としての落ち着きと威厳を持った大人物でしたが……

遠藤の回想を見る限り、なんだかちょっと様子が違いそうですね。スピンオフである「中間管理録トネガワ」を踏襲した、天然っぽいキャラクター設定が垣間見えるエピソードが追加され、ますます謎の人という印象に。

そんな謎の人が、未だ成果を挙げられていない遠藤の下へ。一体何が始まるのやら……

妙にコメディー色の強い「24億脱出編」、ついにシリアスムードに突入……でしょうか。

総評

遠藤が空回りし、カイジが前進しています。

が、この物語の結末が平凡であるわけがありません。

ここからどう物語が転んでいくのか、楽しみです。

9巻の満足度:77/100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?