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漫画感想「異世界のトイレで大をする 最終巻」

9月17日、ルーツ先生が描く異世界ファンタジー「異世界のトイレで大をする」の最終巻が発売されました。

タイトルからして下ネタ全開そうなこの漫画はしかし、ファンタジーという面において大変魅力的で、特に最終巻は非常に面白かったです。語らずにはいられないので、語りたいと思います。

・漫画紹介

紹介記事をリンクします。

・前回までのあらすじ

賞品を求めて闘技場で戦っていたヨータロー一行とシズヤ一行。一方シズヤの仲間の魔導士であるイーシィは密かに魔王と繋がっており、異世界転移してきた二人の事を報告していた。かくして二人に興味を持った魔王は闘技場での戦いに突然割って入り、戦闘になる。

魔王の攻撃を受けたヨータローの仲間のギギーとヌラエルは気がつくと、現代日本のトイレの中にいた。

以下、最終巻のネタバレ注意!


・現実世界転移

前回、魔王との戦闘というシリアスな状況から現実世界に転移してしまったギギーとヌラエルですが……まずはこの二人の異世界探索から始まります。

異世界転移モノとして、異世界人の現実転移というのは定番ですが……そこでトイレが取り上げられるのがこの漫画の特徴です。「テルマエ・ロマエ」よろしくトイレや便器を真面目に分析する姿は、まさに普段のヨータローそのもの。意図せず二人がヨータローの行動を模倣してしまうというのは、なんだかちょっと面白いです。

ツッコミ不在の状況の中、わざわざモブの利用客が出てきてギギー達を変態扱いする始末。まあ当たり前といえば当たり前ですし、見たまんまなのですが、こういうツッコミがあると作中での認識の正常さ・異常さがきちんとこちらに伝わってきて良いです。普段のヨータローの暴走は、二人のツッコミあってのものですからね。

以下、いくつか特に面白かった要素を記述します。

・ウォシュレット

悲鳴の後に「♡」がつくのは卑怯でしょう。こんなのどうあっても笑ってしまいます。

一連の挙動における、ヌラエルの反応が可愛いです。ウォシュレットでダメージを受けた時の表情がなんだか官能的ですし、その後無様に床を転げまわる様子は笑えますし、ギギーが同じような目に遭った時にほくそ笑んでいるのが意地悪で好きです。

最終的にウォシュレットを攻撃魔法に転用するまでが笑いどころだと思います。

・便所飯

わざわざ二人を学校に潜入させてまでこんなもん取り上げなくても……

この便所飯という行為、「ランチメイト症候群」というのはどうやら本当らしいです。というかこの漫画、ウンチクの部分では本当の事しか言っていないのが面白いところです。

しかし洋式トイレの蓋の上にステーキがある絵面は、何とも言えない何かを感じさせます。笑いどころなのかそうでないのか……シュールです。

・トイレ大国日本

公衆トイレは日本全国に90,197か所ある。

……日本すごい。

・異世界の正体

ギギー達の現実世界における彷徨の果てに得た事実は、異世界がはるか過去の現実世界という真理でした。

こういうの、異世界系ではロマンですよね。全く別の世界だと見せかけて、実は……ってやつ。すごく好きです。

まあ、このお話ではあまり有効活用されなかった設定ではありますが。

そうなるとヨータローとシズヤは未来人という事になるのでしょうか。そうなるといろんな問題が起きそうですが……そこは多分、物語の本筋ではないのでどうでも良いのでしょう。置いておきます。

・ヨータローと魔王

場面変わって異世界。魔王に捕まったヨータローとシズヤ一行。一人裏切って魔王の側についたイーシィに生殺与奪を握られてしまった面々。

ですがヨータローは平常運転です。トイレのために試行錯誤する日々。何故か魔王がヨータローに対して協力的であるために、イーシィの干渉を受けずに好き放題。魔王城でのトイレ改革はこれまた新鮮でした。

そしてここで、魔王がヨータローに危害を加えない事、そしてイーシィが魔王に仕えているわけではない事が判明します。

そういえば魔王はこれまで、ヨータロー達に率先して被害を与えてきたりはしていませんでした。初めにシズヤを攻撃した時も、ギギーやヌラエルを現実世界に転送した時も、全て攻撃を受けたから反撃したに過ぎないわけで、一貫して攻撃手段を持たないヨータロー相手には攻撃するどころか、彼の挙動を興味深く感じている風でした。

ていうかむしろ魔王、可愛いですね。あんまり喋らないせいで、ヨータローの挙動を後ろから見守っているだけなのが輪をかけて可愛いです。間の四コマからしても、相当可愛い性格なのが見て取れます。何でこいつが魔王なのか……いや、可愛いので全然いいと思います。

そしてそうなると当然、ラスボスは他にいるわけで……

・イーシィについて

案の定ヌラエルの師匠にして、シズヤの仲間の魔導士だったイーシィが最後の敵として立ちふさがります。

彼女の境遇や凶行の理由については、端的にその場で語られるのみです。が、それが唐突であるとか無理矢理だとか感じさせない程度には物語の要素として上手く機能しているようでした。

イーシィの役割は作中の他の誰も持たない特殊なもので、後日語られるヌラエルの話や49話と50話の間に挿入された二枚の一枚絵から、彼女が根っからの悪人ではないという事が描写されています。この辺りの描写の上手さは、さすがに舌を巻きました。これまで謎の人物でしかなかったラスボスに急速に肉付けされていくその様は、この物語を何段も面白くしてくれています。

・ギギーとヌラエル合流

最終決戦を前に合流した二人は、現実世界で手にした力で応戦します。

ウォシュレットと、糞尿で作った硝石と、ラバーカップによって。

いや、シュールですね。今作一番のシリアス部分であるだけに、シュールです。シリアスなギャグとはまた別の、普通にギャグが入ったシリアスとでも言うべきなのでしょうか。でもシリアスがお寒くならないのが不思議です。具体的な漫画の名称は伏せますが、ギャグの塩梅を間違えたシリアス展開ほどつまらないものはないというのに。

・結末

ここにきてヨータローが活躍するというのは、非常に美味しいです。

これまで全く戦闘の役に立たず、トイレの知識と運のみで立ち回っていたヨータローがようやくまともに活躍するのが最後の最後とは、さすがは主人公。

トイレの中では無敵……なるほど確かに思い当たる節があるようなないような……何よりヨータローらしいスキルです。魔王を倒すほどの力を手にしたイーシィを、トイレに関する知識とともに翻弄するその姿は、カタルシスさえ感じます。笑いも感じますが。

最終的に不死身となったイーシィは、トイレに流されて退場します。散々暴れた後の自業自得な展開といえばそれまでですが、さすがにちょっと可哀想ですね。彼女自身の境遇に同情の余地がある事も手伝って、こんなやられ方をするのは痛ましい気もします。

ちなみにイーシィはその後、どうなったのでしょう。

そのままあの世に転送されてしまったのか。

ヨータローやギギー達と同じように現実世界に行ったのか。

あるいは不死身のまま「無限のマグマ」に身を焼かれてしまったのか。

後日のヌラエルのセリフから、死んだ事が示唆されていますが……

少なくとも作中から分かるのは、ヨータローがいる時間において、「魔王」という概念が存在しなくなっているという事。異世界と現実世界が時間によって繋がっているのなら、つまりはそういう事なのでしょう。イーシィや魔王は繰り返しのサイクルから解放されたのでしょう。

・その後

そこから先はまさに、異世界モノらしい展開でした。

お風呂回に夜這い、ハーレム展開と、ラノベも真っ青の畳みかけっぷりは必見です。

そう、これって異世界転移モノですものね。ギギーやヌラエルともフラグは立っていましたものね。序盤で二人の裸体を気にも留めなかったヨータローが照れて逃げてしまうのは、二人との関係が変化した事が感じられて美味しいですものね。

二人との関係が変わっても、トイレ大好きなヨータロー。最後までキャラが濃くて素敵でした。

・おまけ

・魔王について

魔王は結局、悠々自適に暮らしているようです。

魔物とか率いてないんですかね、この人……

なんかこの悠々自適さ、ツインテールのルーツ先生を彷彿とさせる感じで、ルーツ先生が考えうる限り最高の幸せが描写されているようでほっこりします。

・シズヤについて

ヨータローと同じ異世界転移者のシズヤ。正統派な勇者っぽい活躍をしていた彼は漫画が違えば完全に主人公なポジションで、面白い立ち位置だと思いました。

確か同じく異世界モノの「この素晴らしい世界に祝福を!」でも、主人公とは別の正当派な異世界転移者がいましたよね。そちらはあまりよく知らないので深く語る事が出来ないのですが、そういう「主人公とは別の主人公っぽいキャラ」は良いですよね。

シズヤは当初、ヨータローの事を変な奴だと思っていて……というかずっと変だという認識は持っていますが、段々ヨータローを認めていったのが良いキャラでした。

さてシズヤ、現実世界に仲間を引きつれ、順調に主人公していました。シズヤ主人公の物語もちょっとだけ真面目に読んでみたいものです。ヨータローあってのキャラではありますが。

・総評

異世界モノとしての基本的な魅力が一から十まで押さえられていて、良い物語でした。加えてギャグやトイレ関係のウンチクは独特で、非常に興味深くて面白く、楽しく読めました。何より全体の構成が素晴らしかったです。冒険譚として、ギャグとして、異世界モノとして、最高の漫画でした。

ルーツ先生の次回作、期待しております。

最終巻の満足度:100/100

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