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旅日記、の欠片

春休み、一人旅をした。どういうルートで移動し何を見たのか、仔細に記録したかったが気力が保たなかった。とりあえず公開してみる。



一人旅に必要なのはほんの少しの勇気だけなのかもしれない、とカッコつけて言ってみる。今まで自分で旅の予約をしたことなど一度たりともなかった。ましてや、宿泊する必要のある旅を一人ですることなど前代未聞だ。このことは両親にはまだ話していない。もし打ち明けたらどんな反応をされるだろう。怒られるだろうか。どうして行く前に相談しなかったのか、と言われるだろうか。いや、一度相談して苦言を呈された上で行ってしまったのだから呆れられるだろう。旅行資金はバイト代から出すから許してほしい。

3月9日~10日の間、東京に滞在した。夜行バスは金曜23時、仙台発。居住地は仙台ではないのだが市内にバイト先があるという状況が私にとっては幸運だった。18時までのバイトを終わらせた後駅前を散策したりバスターミナルで待機したりして時間を潰す。

自他ともに認める方向音痴。どこに行くにも自家用車が欠かせない超のつく実家田舎暮らし。それとコロナ禍が重なり、大学生になるまで一人での外出はほとんど経験したことがなかった。中学の時だったか、隣町の眼鏡屋の帰りに単独で電車に乗って帰ることになり、一人で目的の駅に辿り着けるか母と姉からひどく心配された記憶がある。情けない話である。加えて金銭及びスケジュールの管理が苦手なのもあり、イベント遠征に関わる交通機関、宿泊施設の予約はすべて同居人に任せきりだった。今までは。

3月8日のバスに乗って東京に向かう。チケットを取ったのは3月5日のこと。宿は予約しなかった。出来なかったともいう。一応事前に調べはしたが、予定日まで数日を切った状況ではカプセルホテルすら空きがない。けれども予約した。「この時期に宿がないなら行くのやめよう」という方向に精神が向かわないようにするためだ。宿がなかろうが行ってやる、無理矢理にでも行く。そうしないともう立ち会えないものがあった。寝泊まりには漫画喫茶を使った。


仙台シーガルにて闇キリフダ2パックを購入。旅の前に運試し。
ルドルフ・アルカディアが出た。
仙台シーガルが入っている仙台TRビルにて。めちゃくちゃliminal spaceだった。

バスに乗るまでのタイムリミットが迫る数日〜数時間、色んな人に連絡をした。Misskeyで己の無計画さに叫んだり、友人たちとのLINEグループで報告して激励を貰ったり。出発する前に少しでも足跡を残したいという思いがあった。途中でうっかり死んだらどうしよう、という心配がなかったといえば嘘になる。

どうして自分で予約したのにパニックになってるんですか?

他の人と連絡が取れる、誰かとつながっている。そういった実感を持ち続けたかったのかもしれない。今回は知らない土地で突然意識を失っても助けてくれる同行者は居ない。それがひどく不安だった。いざバスに乗ってみればその症状もだいぶ和らいだのは幸いだった。

夜行バス。既に消灯されて薄暗い車内。カーテンの隙間から見える街の灯りを見ながら、「嗚呼ついに乗ってしまった」、ただそれだけを思った。

到着時間は早朝。身体に疲れを残さないようアイマスクと枕を付けて睡眠に入る。




バスの乗口は事前に写真に撮って確認する。




自分でもよくわからない感情に押されたと思う。最初東京に行く予定はなかった。それどころか一度諦めてさえいた。

2月下旬に、東京に遠征する予定だった。友人たちが出展するコミティアの手伝いと、観光(美術館巡りとPOP UPストア)。数か月前から決まっていたこと。けれどもそれは予定日の2週間前に諦めることになる。身内の法事である。1月に葬儀を済ませた祖父の四十九日に出てほしいと母から連絡があった。出棺の際の母の様子が脳裏をよぎる。説得する余地はないと即座に判断した。正直に申告して一人だけ欠席する勇気もない。何より自分もちゃんと参加しなければいけない。そう思った。だってじーちゃん大好きだし、ネ。後に同居人がわざわざ経緯をバラしてくれたおかげで、「大事な予定を断ってまで来てくれてありがとう」と母に謝られた。気まずくて気まずくて、返す言葉もなかった。そんなことを言われるために帰ったんじゃないのに。申し訳ないと、そう言わせたくなかった。だから隠していたのに。

四十九日の後、春休み中はバイトに明け暮れていた。高速バスで片道1時間、仙台と自宅を行き来し、21時を過ぎた頃に自宅に戻る生活。今はだいぶ慣れたが、はじめの頃はデスクワークと長距離移動でくたくたになり、仕事のない日は昼まで寝ていた。そうなると自主制作の時間が全く取れない。時間が取れたとしてもなんだかソワソワして手につかない。創作の糧になりそうだと映像編集のバイトを選んだのに。なんのために行っているのだろう。虚しさと焦りに支配されそうな時。

先輩の自宅でゲームをすることになった。プレイするのはWiiの『EpicMickey』。Nintendo Directでリマスター版のティザーが出た直後にLINEで連絡を取って予定を取り付けた。と書いていると、我ながら行動力があるのかないのか分からなくなってくる。親とか先生とか、他者からどう思われるか、そう考えた時に萎縮しがちなのかもしれない。逆に言えばそういった障害がない時の瞬発力は持ち合わせていると自負している。瞬発力が空回りしてドン引きされることもある。


オリジナル版のEpicMickey。Wiiを使うために毎回先輩宅に押しかけるのは申し訳ないので、後に自分でもWii本体を購入した。

先輩(以下、T先輩と記す)は漫画を生業としている。商業作家として某大手出版社の雑誌に読み切りが掲載された「大先輩」である。私は彼を自分の描きたいものを自覚しつつ実績も出している一人の描き手として尊敬している。その上特撮アニメ趣味で馬も合う。T先輩の最初の読み切りが雑誌に載った際、私はtwitterのDMでファンアートを送った。それを加味すると、T先輩には大学入学直前からお世話になっていることになる。

先輩宅で一通りゲームをし終えた後、部屋で長話をしていた。
「今週その気になれば東京行けるよなって」
「思い切って高速バス予約して行っちゃおうかなー、なんて」
他愛のない会話である。やってみたいとは思っている、けれども自分でそれが出来るとは思っていない。自分でチケットを予約するなどやったことがないから。ネット通販すら怖くてほとんど使えないレベルである。今思えば先輩に話題を振ったのは、背中を押してもらいたかったからかもしれない。一人で歩きだすための、あと一押し。

「行ってみたらいいんじゃない?」
あっけらかんとした口調の返答。それをきっかけに、私は自宅に戻った後、眠い目をこすりながらスマホで夜行バスを予約することになる。

先輩に相談してよかったと心から思う。