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ヒナドレミのコーヒーブレイク    旅の途中 ~列車編~

 こんにちは、ヒナドレミです。旅好きの私は(以前は)よく旅をしたものでした。しかし、最近ではいろいろな面で旅をすることが難しくなってしまっています。せめて・・・旅をしたつもりで、列車に乗ってみたいと思います。

            旅の途中 ~列車編~

 ローカル線にガタゴトと揺られながら、のんびりと 流れゆく車窓の景色を見ていた。ボックス席タイプのこの列車で、同じ車両の乗客は私の他に5人ほど。みな思い思いの格好で列車に乗っている。駅弁に舌鼓を打つ年配の夫婦、缶コーヒーを片手に新聞を読んでいるサラリーマン風の男性、車窓の景色には目もくれず、一心に本を読むOLらしき女性。そして、目深に帽子をかぶりサングラスをかけた謎の人物の5人。この中には、旅というより生活の一環として乗車している人もいるのかもしれない。私は、何か事件が起こりそうな、嫌な予感がした。

 しかし私のそんな予感とは裏腹に、列車は美しい景色の中を直(ひた)走る。そして列車はやがて渓谷の鉄橋へと差し掛かった。線路を走る規則的な音が、そして振動が眠気を誘う。私はつい、ウトウトしてしまった。

 と、急に停電になったようだ。そして停電のすぐ後に「ただ今〇〇により停電しております、復旧までしばらくお待ちください」という車内アナウンスがあった。「あっ、やっぱりこれは殺人事件が起こるのか。電気がついたら床に人が倒れていて・・・」私の頭の中には良くないことばかりが錯綜している。

 数分の後、車内が明るくなった。私の意に反して、何事も起こっていなかった。ホッとするとともに、名探偵になり損ねた自分がそこにいた。

 列車の車窓は、一層山深き景色へと変わっていき、人家がボツボツと建つ寂しい景色になった。もうすぐ、私の下車する駅に到着する。この列車の終点だ。これからどんな場所が私を迎えてくれるのだろう。今回の旅はどんな旅になるのだろう。私は様々な妄想を抱く。今回は行き当たりばったりの、きままな旅にするつもりだ。「列車を利用した旅にしよう」ということ以外は、何も決めなかった。もちろん宿も。ただ願うのは、事件が起こらず楽しい旅になること、それだけだ。                  完

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