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人生で最も多くケーキを食べた一ヶ月

先週は、国公立大学の合格発表ラッシュだった。

受験を二回経験した身としては、その結果が本人にとってどれだけ重いものかを実感しているつもりだ。

大学受験と聞くと、いつも思い出す家族のエピソードがある。


浪人して受けた二度目のセンター試験。
翌日に学校へ集まって自己採点をした日のこと。(私の地元は特殊で、浪人生は予備校ではなく高校の横にあるPTA設立の校舎に通っていた。)
自分の問題冊子と模範解答を照らし合わせながら、自己採点をしていく。誰一人喋らない静かな教室で、みんな黙々と採点をする。

教室は静かでも、それぞれの心の内は騒がしかったに違いない。
私もその一人だった。


自己採点の結果が良すぎたのだ。

これでもかとばかりに正答の○が続く。

いや、こんなに正解する…??
なんだかおかしくて笑ってしまいそうなほどだった。

自分の想像以上の点数を前に、口元がにやけてしまう。


しかし、ここは浪人生が自己採点をしている教室。
シビアな現実を受け止めている同級生だっているはずだ。

緊張感漂う教室の中、舞い上がる気持ちを必死に抑え込んでいた。

自己採点が終わり友人とおしゃべりする時間になっても、ハイになった自分を出さないように気を遣っていた。


そして家に帰り、祖父母と夕食を食べ、しばらくして共働きの母と父が帰ってきた。

ここでやっと、自分の気持ちありのままに結果を報告することができた。

「センター試験ね、自分でも笑ってしまうほど点数良かったんよ。でも舞い上がったらいけんと思って必死に隠しとった。」

両親は大笑いしながら喜んでくれた。

「よく我慢しとったねえ。うちではいくらでも自慢していいけんね。一年間の成果が出たね、よく頑張った…!」


その次の日からだ。
個別試験へ向かって勉強する私を励まそうと、両親のケーキ攻撃が始まったのは。

父と母がそれぞれに理由を付けてはケーキを買って帰るようになった。
何らかの形で私を応援したかったのだろう。ケーキ=お祝い事というイメージがある我が家では、私のセンター試験の結果が良かったことを祝う意味も含んでいたのかもしれない。
ケーキの箱を手に帰宅する両親の姿がなんだか微笑ましくて、素直に嬉しかった。


大学受験と聞くと、私はいつも、人生で最もケーキを食べたこの一ヶ月のことを思い出してしまう。

その後晴れて第一志望の大学に合格し、2年間の受験生活は幕を閉じた。
浪人という思いがけない形で家族ともう一年過ごすことになったけれど、その分思い出も増えたのかもしれない。