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花贈りのルールが何とやら

「子供に花を選ばせたら仏花だったから困った」という旨のツイートをたまに目にします。

私がどこでどんな仕事をしているかは言わないし、これはあくまでも個人の意見ですが、実は花き業界に近い位置で仕事をしているわたしが思うことについてちょっと書きます。

繰り返しますが、会社とこれは一切何の関係もありません。本名でネットで文章上げてるのが正気の沙汰ではない。

花屋に置いてある「仏花」は難しいです。

※ここでは、故人に供える花、という意味で「仏花」と言っています。かなり乱暴ですがお許しください。全ての宗教、また特に信仰のない故人にも当てはまる話です。

厳密にいうと「仏花」などという花はないし、ルールはありません。花を贈ったり供えたりするのに最も大切なことは「その人のことを思って選んだか」ということです。

あの人が好きな色だなあとか、
あの人の顔が浮かぶなあとか、
あの人はこんな香りの香水をしているなあ、
とか思いながら、思いを馳せることが一番大切。
もちろん仏花でもいっしょよ。
その人のことを思って贈ることがサイコーのプレゼントだし、
その人のことを思って供えるのがサイコーの供養なのです。

「仏花」とよく言われるのはキク。
だから、お家に飾る花や贈り物としてキクが選ばれることはあまりありません。
だけど、キクは色々な色や形で咲く、とても愛らしい花です。それに、めちゃくちゃ丈夫で、暑い夏でも長持ちします。だから、お花を家に飾るのに慣れていない人にはもってこいのお花です。

9月9日は重陽の節句といって、無病息災を願ってキクを飾ります。めちゃくちゃ縁起のいい花です。また、邪気を払う花と言われており、古来からお墓に供えられてきました。

ただ、イベントと商品が結びついているときは、かならず「売る側」の思惑があるのも間違いありません。
キクはもちがいいので、花屋としては都合がいいのです。(もちろんどこの花屋も、質が悪くなってもずっと置いている、という意味ではないよ!!!!)
長い間、たとえばお盆の市場が閉まっている間も店頭で元気に出せるのです。

その、「邪気を払う」という役割と「持ちがいい」という売り手の都合がうまいこと合致して「仏花」になってしまったわけです。と、思っています。本当のところは知らないし、そうだよ、と花屋は言わないんじゃないかなあ。

だからといって、キク自体が縁起の悪い花になるわけではありません。

個人的には、子どもが「かわいい」と言って選んだのであれば、それを尊重するのも一つだと思います。お店に言えば「仏花」とか書いてある袋は外してもらえますし。

それからもちろん、あなた自身が「かわいい」と思ったなら、連れて帰ってあげてください。おうちで邪気を払ってくれます。


これは、お悔やみのお花でも一緒です。
たとえば仏教の考え方で、毒のある花や棘のある花は殺生を思い起こさせるので避けるべき、と言われています。

たしかに、毒のあるお花は動物が口にすると最悪死に至るので、お家に贈るのは危険ですし、棘がある花を墓に供えると墓守や後から来た人に怪我をさせる危険はあります。そこに十分留意した上で、故人が好きな花が真紅のバラであれば、バラを供えていいと思います。

ただし、詳しく知らない相手にキクを贈ったり、お供えの花としてバラを選ぶと、相手が気を悪くする場合があるので、注意が必要です。その意味を説明して理解される相手でなければ、まだ危険だなと思います。

一方で、供養に相応しい花としてキクを使ったり、殺生を連想するといってバラを供えるのを避けてきたりした日本の文化も否定するつもりはありません。作られてきた文化は尊重されるべきです。だから、キクと仏花をきりはなせ!故人にバラを供えろ!とは思っていません。そして「それはお供えの花だから違うのにしようね」と教えた親を責めるつもりもありません。それもそれでマジで正解なんだよな。

私の願いは、キクから仏花の印象が“薄まる”こと。
それから、どんな目的であれ、花をおくるうえで大切なことは「相手を思って選ぶこと」だけが大切だという考え方が浸透すること。

これをやるのは花き業界全体の責任だと思います。
こうやって、よくわからねえルールやしきたりがおおいから、「じゃあお花は好きだけど、花を贈るのはやめちゃおう」となっていたら、この国から花贈りの文化がなくなります。それはとっても、精神的に貧しいことだと感じています。

お花はその色や香りで私たちを元気にするのを手伝ってくれます。言葉にできない思いを伝えるのを後押ししてくれます。直接言えない「ごめんね」「ありがとう」「大好き」を、代わりに伝えてくれます。

それに、花は生きています。
元気に咲いて、枯れていく、身近な生き物です。
花が生活の中にあると、私たちは、自然に生かされているということがよくわかります。

花が生活からなくなっていくことは、とても貧しいことだと思います。

花が売れないと嘆いていないでシャキッとしろよ!と思う毎日だけれど、そういうツイートを目にすると「そうよなあ」とも思うのです。

新しい考え方を導入するのは時間と根性を要します。私は負けたくない。別にものすごく花に愛があってこの仕事をやっているわけじゃないけど、大切なビジネスパートナーだから、そして花が持つ力を信じているから、このまま花のない国にはしたくないのです。

好きなお花を買おうね。
あの人のことを思って花を贈ろうね。
それがあなたのためであり、あの人のためであるよ。

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▼キクをテーマに書いた創作
(言ってる側から葬式テーマじゃないか!)

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