【詩】淡彩

「さようなら」
淡雪のように彼女の身体が溶けてゆく。
指先が、顔が、どろどろと溶けてゆく。
僕が望む間だけ、彼女はそばにいた。
世界を憂い、その身を散らした後もそばにいてくれた。
彼女の愛は真綿のように温かく、柔らかく、僕の首を絞めていた。
僕が望まなくなった一瞬の隙に、彼女は消えてしまうのか。
彼女は二度死んだ。
二度目は僕が殺した。
彼女を失い大海に解き放たれて初めて気づく。
彼女は僕の湖だった。
そして僕は淡水魚だった。

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